せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです

13. 変わり始める生活

 職場の休憩時間中、ジェシカは物思いに耽っていた。

(上手くいくかしら……)

 ここ最近、ジェシカの身辺は忙しい。
 うれしいことだが、プレッシャーを感じてもいた。

(ハンスが手を貸してくれたんだから失敗しようがないと思いたいけど、そもそものきっかけが私の思い付きだし……)

 皆が習得できるのか。
 量産は可能なのか。
 そして市場に受け入れられるのか──

 心配は尽きない。

「どうしたの? もしかして疲れてるとか?」

 マーサが心配して、ジェシカの顔を覗き込んできた。

「ちょっと、先生、大丈夫? 顔が真っ白だよ。このあと歴史的な第1回目の講習会なのに……」

 ジェシカのことを『先生』と呼んだのはリアナだ。
 冗談でも何でもない。
 これからジェシカは講習会の先生になるのだ──


 ジェシカは、魔法書を借りて帰った次の週末、約束通りハンスの家を訪問した。
 それどころか、その次の週末も、またその次の週末も。
 最初の訪問から2ヶ月経つが、その間週末になると欠かすことなく通った。
 気がつけば、週末はハンスの家で過ごすのが決まりみたいになってしまっている。
 最近など、ハンスから『もういっそのこと、ここに住んでしまえば?』と言われる始末だ。

 しかし、全く笑えないから困る。
 そんなことはできないと分かっていても、それができたら……と願ってしまう。
 セシルのことを考えると、あの家は住むのに理想的過ぎるのだ。
 つい想像してうっとりしてしまったあとで、非現実的だと打ち消すときの虚しさといったらない。

 ハンスの住む官舎は、ハンスの職場である国立研究所やカレッジ、そしてセシルの通う魔法学校などが集約された学園都市の中にある。
 通学が楽なのはもちろん、治安だってすこぶる付きでいい。
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