せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです

 セシルが魔法学校の入試に合格した後、ためしに通学の便がよい地域の物件を調査したことがある。
 しかし、どこも家賃が高過ぎて、早々に諦めざるをえなかった。
 その中でも特に学園都市は別格だった。
 こんなところに住めるお金持ちが世の中にはいるのね、とため息しか出なかった。

 その場所に『住まないか』と軽い口調ではあるものの、絶対に本気で口説いてくるのだ。
 セシルのために、頷きたくて堪らない衝動に駆られる。
 しかし、頷くわけにはいかないのだ。
 婚約者のいる男性宅に転がりこむなど、道義上ありえない。
 それに、結婚後はどうするつもりなのか。
 それまでの期間限定ということだろうか。

(ところで、ロザリアさんとは、いつ結婚するのかしら?)

 ジェシカ、ハンス、ロザリアは皆、ヨルデン州立魔法学校の同級生だった。
 ロザリアもすでにカレッジを卒業しているだろうから、いつ結婚してもよさそうなのだが。
 しかし、ハンスの様子を見るに、近い予定にはなさそうである。

 ロザリアとそしてセシルのこと。
 『改めて話そう』と言われたが、あれ以降ハンスは一度も言及してこない。
 ジェシカのほうも、ロザリアのことはともかく、セシルのことを追求されたくないので、敢えて触れないでいる。

 セシルは書斎で魔法書を好きに読み漁り、ジェシカはハンスから魔法を習う。
 例の糸で互いを繋ぐ魔法だ。
 ハンスが熱心に勧めてくるので、欲求に抗えなくなって、教わることにしてしまった。
 『教えてほしい』とお願いした後のハンスの笑顔に、しまった! と思ったが、後の祭りだった。
 そうして、夕方になると手料理を振る舞われ、手土産にお菓子をもらって帰る──
 毎週その繰り返し。
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