せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです

(ハンスはこの曖昧な関係を、一体いつまで続ける気なのかしら⁇)

 そう思うなら、ジェシカのほうが訪問するのを止めてしまえばいい。
 セシルはがっかりするだろうけれど、また州立図書館に通う生活に戻るだけのこと。

 にも拘わらず、そうしないのはジェシカ自身が望んでいるからに他ならなかった。
 楽しいのだ。
 ハンスから魔法を教わるのが。

(何だか、学生時代の続きみたい)

 ハンスは常時、学級委員や生徒会役員といった役割を任されていたから、ジェシカほどは放課後に図書館へやってくる頻度は高くなかった。
 それでもジェシカが図書館で課題をしていると、よく声をかけてきたものだ。

 『自分で考えないと意味がないから、答えは教えないで』というジェシカに、誤っている箇所を指摘してくれたり、ヒントを与えてくれたりした。
 答えを教えるなと要求しておきながら、それでは正解に辿り着けないときもあったが、ハンスはさらに工夫し噛み砕いて教えてくれた。
 しつこく質問しても、毎度丁寧に答えてくれた──

 ハンスの書斎は、その魔法学校の図書館を彷彿とさせる。
 ジェシカの大好きだった場所。
 ハンスもきっとそうに違いない。
 だから、意図的にかどうかは分からないが、あれほど似通っているのだろう。

 そうして今回もハンスの協力により、ジェシカは糸の魔法を習得することができた。
 始めは困難に思われたが、ハンスがジェシカから話を聞いてくれて、どうしたらジェシカにも扱えるかをふたりで議論し、その末に簡略化できたのも大きい。

──これ、欲しい人がいっぱいいそう。

 魔法をかけた紐を見ながら、ジェシカは言った。

──子どもの誘拐なんかも防げそうよね。売れたりして、ふふっ。
──いいんじゃないか? 本気で商品化してみたら?
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