せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです
それが、今では大きな差ができてしまった。
ハンスは国立魔法研究所の上級研究員で、魔法学校の非常勤講師も務める。
ジェシカは、魔道具工場で最も稼ぎの少ない班に所属する工員。
書斎で一緒に過ごしてつい勘違いしてしまったが、あの頃とは違うのだ。
第七班の仕事内容と待遇を説明する間、惨めな気持ちでいっぱいになった。
ハンスのほうは神妙な面持ちで聞いていた。
──本当は、雇ってくれてるだけで感謝しないといけないんだけどね。
『魔法学校までしか出ていないシンママの自分を』とは言わなかった。
ハンスの前でそれだけは言ってはいけない。
──それに同僚にはとても恵まれてるの。恵まれ過ぎなくらい。第七班の皆に助けてもらって、これまでやってこれたんだから。
微笑みながらそう言って締め括った。
精一杯の強がりだった。
けれど、涙が溢れそうになる。
ハンスはそっとジェシカを抱きしめた。
ずっとそうされたかった。
涙が落ちないように、ハンスの胸に頭を預けた。
と、そのとき、セシルが飛び込んできた。
──僕も入れて!
そのまま、3人で抱き合った。
しあわせしか存在しない時間。
ハンスとセシルの温もりを全身から吸収する。
しかし、ハンスはそんなときでも頭を働かせていたらしい。
──よし、改善要望をだそう!
──えっ⁉︎
顔を上げたジェシカを腕から離さず、ハンスは言った。
──まず、商品化するなら、『製造は第七班で』と条件を出すんだ。
──そんなこと、できるかしら?
──できるようにするんだよ。君が第七班の従業員に教えるんだ。
──そんな大それたこと……
──君ならできる。
──うん、できるよ。だって、僕のママはすごいんだよ。何でも教えてくれるんだ。
話の内容が分かっていないセシルまで加わった。
ジェシカのことを誰よりも自慢に思ってくれていることが伝わってくる。
──そうだね。君のママはすごいよ。
──……私、やってみるわ。
もう一度、3人で抱きしめ合った。