せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです
いよいよ第七班の皆に、魔法の糸を作り出してもらう。
今日のところは糸を出せたらいい。
糸で紐の結び目同士を繋ぐのは次のステップだ。
何しろまだ初日なのだ。
焦るつもりはない。
(スモール・ステップで……)
「ジェシカ、糸にならずに、霧みたいに分散しちゃうんだけど。どうしたらいいか教えて!」
「私も! コツみたいなものはある?」
「それはね……」
それでも皆には難しいようだ。
ひとりひとりに教えて回る。
「できた!」
リアナのよろこぶ声に、全員の視線が集まる。
しかし、リアナの表情はすぐに曇ってしまった。
「……あっ! もう消えちゃった」
「がっかりすることなんてないわ。初日から糸を出せただけでも、十分すごいことよ」
「本当? やったあ!」
ほかのメンバーも再び糸を紡ぎ始める。
「ジェシカ、見て! これってできてるよね?」
「私もできた!」
「私も‼︎」
普段なら淡々とガラス容器に水が張られるだけの作業場所。
そこが歓喜と興奮で満たされる。
笑顔で喜び、手を叩き合う。
未だかつてない光景だ。
「ジェシカ先生のお陰だわ!」
「うん、うん。説明が分かりやすかったよね」
少女時代、教師になりたいと夢見ていた。
それを諦めて母親になったのは、自分自身の選択だ。
そこは納得しているし、もしやり直せるとしても次も必ずセシルを選ぶと言い切れる。
しかし、ジェシカの中には、憧れの教師になれなかったという傷ができた。
今それが癒やされていくように感じる。
「私、魔法学校の先生になりたかったの」
「そうだったんだ」
「分かるかも!」
このことを職場で話すのははじめてだ。
隠していたつもりはない。
そのことをわざわざ打ち明ける機会がなかっただけである。
それでも、ようやく言えた、と思った。
(何だか吹っ切れたような気がする)