せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです
ジェシカは家まで息を切らせて急いだ。
下宿に到着すると、ドアを勢いよく開ける。
「セシル、遅くなってごめんね!」
「……あっ、ママ。おかえりなさい」
声が弱い。
思っていた反応と違う。
てっきり、『遅過ぎだよ』と泣かれるか責められるかのどちらかだと思っていた。
嫌な予感がした。
「セシル? もしかして体調が悪いの?」
駆け寄って、おでこに手を当てる。
しかし、熱はないようだ。
「お腹は空いてる?」
「うーん、あんまり」
それでも、すぐに用意した。
体調不良なら早く寝かせたいからだ。
今は熱はなくとも、これから上がってくる可能性だって十分考えられる。
量の少ない夕食。
いつもなら、あっという間に平らげるのに、今日はもそもそと食べるので時間がかかった。
「セシル、どこか痛いところはない?」
「ない……」
(なら、どうしてそんなに元気がないの?)
胸がざわつく。
翌朝になっても、セシルの体調変化はなかった。
平熱だが、その表情には覇気がない。
(学校には行けそうだけど、行かせて大丈夫かしら……)
とはいえ、今は、第七班の皆で一丸となってがんばろうと動き始めたばかりのタイミングである。
僅か2日目にして欠勤したくはない。
(昨日は初日だから特別に遅くなっただけだわ。今日からはいつも通りの時間に帰ってこられるだろうし、セシルの様子を注意して観察しておくようにしよう)
そう思ったにも拘らず、この日以降もジェシカ先生の講義は大盛況だった。
セシルのことは一等大事だが、自分から始めたプロジェクトである手前、熱心な生徒たちを無碍にすることもできない。
こうして、ジェシカの帰りは連日遅くなってしまったのだった──