せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです

15. ハンスの存在

 週末がやってきた。
 ジェシカとしては、相変わらずのセシルの具合を鑑み、今週は家でゆっくり過ごすつもりでいた。
 しかし、セシル本人が強く望むので、結局ハンスの家に来てしまっていた。

 セシルがトイレに向かったタイミングで、ジェシカはハンスに切り出す。

「最近セシルの元気がないの」
「僕も今日はぼんやりしてるなと思ってたけど、今日だけじゃないんだ」
「そうなの」

 それも、あの日からずっとなのだ。
 風邪や感染症の類いではなさそうだが、原因が分からず、ジェシカは気がかりで仕方がない。

「連日帰りが遅くなって寂しい思いをさせてしまったから、そのせいかとも思ったんだけど……」

 気にはなっていたものの、仕事が忙しかった期間、十分なケアをしてあげることができなかった。

 しかし、それももう終わった話だった。
 無事に第七班のメンバー全員が糸の魔法を習得できた。
 現在は発売日に向けて、着々と商品の製作に取り組んでいる。
 もう軌道に乗ったも同然。
 ジェシカを含め、第七班の帰宅時間はまた元に戻った。

 にも拘らず、セシルのほうは元に戻らなかった。
 それどころか、母親であるジェシカの目には、日に日に悪化しているように映る。
 
「魔法学校に入学して疲れが出てくる時期なのかしら? ほかの1年生はどう?」
「ごめん。僕は1年生の授業は受け持ってないんだ」
「そうだった。中等部だけ教えてるって言ってたわね」

 それを聞いたときには、学校でまで関わりをもたずに済むことにほっとしたはずなのに、今はがっかりしていた。

「一度空き時間にでも、1年生の教室を見に行ってみようか?」
「本当に⁉︎」

 この家をはじめて訪れたときには、ハンスに対して全神経を尖らせて警戒していた。
 それが今ではどうだ。
 警戒を解いただけでなく、相談をもちかけ、あまつさえ頼ってまでいる。

(私ってば、勝手なものね)
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