せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです

 ハンスが魔法学校の非常勤講師だから、というのも当然ある。
 しかし、ジェシカは自分でも気づいていた。
 何より彼がセシルの父親だからという理由で、こうしてセシルの相談をしている自身に。

「それとなく1年A組の担任に訊いてみることもできると思うよ」
「ありがとう!」

 セシルをひとりで育てると決めた日から、心を強く保ってやってきた。
 けれど、本音をいえば、いつだって心のどこかに不安はあった。
 そうしてここにきて、ジェシカにはどうすることもできない部分を、セシルの父親が助けてくれようとしている。
 頼るなというほうが無理な話である。

「もしセシルくんに疲労が溜まってるようなら、やっぱりここに越してきたら? 通学が今よりずっと楽になるんじゃないか?」
「それは……」

 ハンスの目も口調も、これまでとは違った。
 これまでも本気であることは透けていたけれど、あくまで冗談のような軽い提案を装っていた。
 だから、ジェシカのほうも魅力を感じつつも、聞き流してこられた。

「そろそろ真剣に考えてくれないかい?」

 最近のセシルは、ジェシカが体調や学校のことをあれこれ訊ねても、素っ気ない返事しかくれない。
 セシルの様子が明らかにおかしいのに、原因が分からないことには何もできない。
 それがどうにも歯がゆくて、もどかしくて。

 そんな状況下で、悩みを共有してくれる相手がいるというのは救われる思いだ。
 ハンスと何もかも共同できたら……と頼りたくなってしまう。
 抗えない衝動が沸き起こる。

(あっ……)

 ジェシカはこれと似たような衝動を知っていると思った。
 過去にも経験があったからだった──
 
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