せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです
ジェシカがハンスの存在を知ったのは、魔法学校に入学して割とすぐのことだった。
噂の的になっていた。
──A組に、校長先生の孫がいるんだよ。
──知ってる。でも、顔は校長先生に似てない。
──魔法はすごいみたい。A組の子が言ってたんだけど、6年生で習う魔法も使えるんだって!
──あっ、ほら! あの子。
ハンスは顎を引き気味に、シャキッと背筋を伸ばして歩いていた。
(すごく頭がよさそう)
それが第一印象。
背だけみれば確かに1年生だけれど、同い年とは思えないほど大人びていた。
廊下でA組の集団とすれ違うときには、周りはいつだって浮き足だった。
そうして、ハンスのことを探す。
校長先生の孫というだけでいちいち注目されて嫌にならないか、と心配になるほどだった。
けれど、ハンスは何に対しても意に介することなく、一切合切を受け入れているように見えた。
大きくなるにつれ、女子がハンスに向ける視線は次第に色を帯びるようになっていった。
すぐそばを通りがかる幸運に恵まれた女子たちは、キャアキャアと大騒ぎし喜んだ。
選抜科と普通科が合同で受ける選択授業を決める際には、皆してハンスが選びそうな授業を予想して狙った。
けれど、ジェシカだけはそこに加わろうとはしなかった。
格好いいと思わなかったわけではない。
試験の成績も不動の学年トップ。
行動だって、いちいちスマート。
もちろん羨ましかったし、憧れもした。
しかし、ただそれだけ。
雲の上にいるハンスを見上げ、すごいなあと感心する以上のことはなかった。