せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです

 というのも、ジェシカは自分に不満がなかったからだ。
 ジェシカの成績は中の中か、調子のよいときでもせいぜい中の上辺り。
 それでも、気を抜かなければ、ヨルデン州立魔法カレッジに進学し、魔法学校の教員免許を取ることも全く夢ではない位置だった。
 だから、それ以上を目指す必要はなかった。

 彼が校長先生の孫という点も、特に響きはしなかった。
 ジェシカが目指していたのは、ムーンウェイン先生やハーマン先生のような、身近で生徒ひとりひとりに寄り添い、勉強の楽しさを教えてくれる先生たちのほう。
 授業を受けたことのない校長先生は、ジェシカにとっては、遠過ぎる存在に感じられた。

 家族が校長先生をしているというのはどんなだろう? と考えたことはあるが、自分の家族が校長先生だったら、とは思いもしない。
 それも、自分の家族が大好きだったからだ。

 恋愛にも興味は薄かった。
 いつか結婚して家族をもつだろうと、ぼんやり思ってはいたけれど、具体的に誰とまで想像することはなかった。

 注目され、女子生徒からの視線に追われることが常のハンス。
 だからこそ、ジェシカはあえてハンスのことをほかの生徒と同じように扱った。
 ハンスと校内ですれ違うときも、彼があのハンス・スティルロッドであることを意識しないように努めた。
 ほかの生徒とすれ違うのと同じように、すれ違う以外の行為はしないようにした。

 向こうはジェシカの顔と名前すら知りもしないというのに、そうしたところで何の意味があるというのか。
 でもそれは、ムーンウェイン先生やハーマン先生が特定の生徒を贔屓したりはしなかったことに影響を受けていたからかもしれない。

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