せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです

 そんなふうに過ごしていたから、自分がハンスと接点をもつことなど想像もしなかった。
 しかし、中等部に上がってまもなくの頃、ハンスのほうからジェシカに声をかけてきた。

(私、そんなに課題に困っているように見える?)

 ジェシカは中等科に上がってから、課題はもっぱら図書館で片付けるようにしていた。
 図書館という場所が単純に好きだったことが大きいが、参考にできる図書が山ほどあるのだから、これほど課題をやるのに適している場所はない。
 課題を終えたあとは好きな読書もできる。
 図書館に行かない理由が見つからなかった。

 その日も、いつものように課題に取り組んでいた。

──ずいぶん悩んでるみたいだね?

 顔を上げて、ハンスに微笑みかけられたときには、一瞬何が起こったのか分からなかった。

(知り合いの誰かと間違えてる⁇)

 しかし、そんなことはなかった。

──僕は、同じ7年生のハンス・スティルロッド。もしよかったら、教えようか?

 学年1、もしかしたら学校1の有名人自らが自己紹介してきた。

──私のこと、どうして7年生って?
──ジェシカ・ウォルコットさんだよね? 話すのはこれがはじめてだけど、同じ学校に通ってもう7年目なんだ。もちろん知ってるよ。
──えええっ⁉︎

 ジェシカは、ハンスがその他大勢に過ぎない自分を認識していることを知り、とても驚いた。
 しかし、考えてみれば、ジェシカだって係わりはなくとも学年全員の顔と名前くらいは一致していた。
 ハンスだって、そうなのだろう。
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