せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです
(それにしても、いくら課題に悩んでるからって、名前を知ってる程度の私にまで救いの手を伸べようとしてくれるなんて、噂通り人がいいのね)
けれども、すんなり『お願いします』と言うわけにはいかなかった。
他でもない、ムーンウェイン先生の課題なのだ。
ハンスから教えてもらった内容をそのまま文字にしたところで、すぐに見破られるだろうと予想ができた。
ムーンウェイン先生はそれほど生徒のことを丁寧に見ていた。
それに、ジェシカもそうしたくなかった。
悩んでいたのは事実で、教えてもらってしまえば楽だ。
でも、自分で考えたい。
──分からないのはどれ?
──ここだけど……
──ああ、これはね、
──待って! 言わないで‼︎
ハンスは目を大きく瞠いて、ジェシカのことを見た。
こんなことを言われたのははじめてなのかもしれない。
──……ごめんなさい。でも、答えは教えないでほしいの。
──いや、こっちこそごめん。押しつけみたいなことをしてしまって。
──ううん、そうじゃないの。あの、もしよかったらなんだけど……
正直なところ、ジェシカの考えをひと通り説明するから、その中で間違っている箇所だけを教えてくれと頼むのには勇気が要った。
平々凡々な成績の自分の考えを、学校創立以来の天才と謳われているハンスに話そうというのだ。
ハンスはどう思うだろうか。
(まどろっこしい? 時間がもったいない?)
しかし、ハンスは微笑んだのだった。
「もちろん構わないよ。そういう姿勢、とてもいいと思う」