せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです
ジェシカとハンスはそのうち、いろいろな話をするようになった。
ほかではしない話さえも。
──えっ、ハンスはフィラストン魔法カレッジ志望なの⁉︎
──しっ! 声が大きいよ。図書館では静かにね。
──ご、ごめんなさい。ついびっくりしちゃって……
首都フィラストンにある国立フィラストン魔法カレッジは、国内の最高学府だ。
田舎のヨルデン州立魔法学校からは、毎年も進学者はでない。
せいぜい数年にひとり程度。
しかし、他ならぬハンスなのだ。
目指しても決して無謀だとは思わないし、それどころかハンスなら当然だと思う。
にも拘らず、なぜかは分からないが、てっきりハンスもヨルデン州内で進学するものと勘違いしていた。
ハンスの祖父がヨルデン州立魔法学校の校長をしてないるのだから、とかそういう単純な理由でそう思ってしまったのかもしれない。
えも言われぬ淋しさを覚える。
──いつまでも祖父母の世話になるのも悪いしね。
──どういう意味?
ジェシカはハンスが両親と離れて、祖父母宅に暮らしていることを知らされた。
──両親はフィラストンにいるんだ。
──ということは、フィラストン魔法カレッジに入学できたら、ご両親と暮らせるのね?
『そうなんだ』と笑顔を見せると思った。
しかし、ハンスは曖昧な表情を浮かべた。
──どうだろうね。
ジェシカの心は大きく揺さぶられた。
全てにおいて恵まれている人だと思っていた。
人柄や能力だけでなく、家庭環境までも。
でも、そうではなかったのだ。
ハンスが全てをもっている人ではないと知り、胸が締めつけられた。
抱きしめたい、と無性に思った。
異性にそんな感情を抱いたのははじめてのことだった。
ジェシカは慌ててかぶりを振った。
(私ってば何を! 家族でも恋人でもない異性にそんなこと、できるはずがないじゃない……)
なのに、困ったことに、ジェシカの願望はぐずぐずと居残った。
このときになって、ジェシカはようやく自分の気持ちを理解した。
(私、ハンスのことが好きなんだわ)
ハンスと放課後を過ごすようになって、実に5年が経っていた。