せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです
しかし、それ以降もふたりの関係が変わることはなかった。
相変わらず、話すのは真面目な内容に終始した。
ジェシカは自分の気持ちを伝えようとは思わなかった。
魔法学校を卒業してしまえば、ふたりの進路が交わらることは二度とない。
ハンスは首都に出て、エリート街道を突き進んでいく。
共通する部分もあったけれど、それが有効なのはここ図書館内だけ。
(私とハンスとでは能力が違うんだもの、仕方ないわ)
ジェシカは、ヨルデン州立魔法カレッジに進み、将来は母校で教師になるつもりだ。
ヨルデンを出ることはない。
小さい頃からの夢だった。
それに一歩近づいたのだ。
(だからいいじゃない)
何度も何度も自身に言い聞かせた。
そうして日々を送り、あっという間に卒業証書授与式と卒業祝いパーティーの前日となった。
放課後になると、ジェシカは図書館へと向かった。
受験で忙しく、ここ最近は全く行けていなかった。
見納めするためにどうしても今一度行っておきたい、そんな思いだった。
その日は朝から雨が降っていた。
雨の図書館は好きだ。
館内に入った途端、雨の音が遠のいて、まるでシェルターみたいだと思う。
古い本の匂いも漂ってきて、ほっとした気持ちになる。
卒業式を翌日に控え、図書館は開いてはいたものの、静まりかえっていた。
もっともだ。
在校生たちは翌日の準備に駆り出されていたし、卒業生たちは図書館へ来るよりも、ほかにやりたいことがあった。
こんな日まで図書館へ足を運ぶもの好きはジェシカくらいだ。
ジェシカはそう思っていたけれど、もの好きはもうひとりいたらしい。
──ハンス! あなたも来てたのね。
──君こそ……なんて言って、ここに来れば君に会えると思ってたよ。
──行動を読まれちゃってたのね。最後に、どうしてももう一度来ておきたかったの。
──僕もだ。この学校で最も好きな場所だから。大人になってからこの学校のことを振り返るときには、きっと真っ先にここを思い出すよ。
──そんなふうに考えたことはなかったけど、私もきっとそうだわ。
未来のことを思い浮かべているのに、胸が痛かった。
お互い同じ刻に同じ場所を思い出していたとしても、そのときジェシカはハンスのそばにはいない。