せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです

──ところで、久しぶりだね。
──ええ。受験で忙しかったから……って、そうだわ。おめでとう。フィラストン魔法カレッジに受かったんですってね。普通科まで噂は届いたわ。

 『ご家族』と言いかけて、止めた。

──校長先生もよろこんだでしょう?
──うん、まあ。でも、祖父は卒業生全員の進路を心配してたから、僕はあくまでそのうちのひとりっていう扱いだよ。
──そんなこと……
──僕のことはいいんだ。それより、ジェシカのほうはどうだった?
──ふふっ、私も受かったわ。
──君こそ、おめでとう。それじゃあ、

(私たち、お別れなんだわ)

 受かっても受からなくても、それは決定事項だったはずである。
 結果がどうであれ、ジェシカが首都に行く選択肢はなかったのだから。
 それなのに、急に別離が現実味を帯びて迫ってきた。

──教師になるんだね。
──そう、そうよ! ハンスは? ご両親みたいに、魔法省を目指すの?
──僕は役人っていう柄じゃないからなあ。漠然とだけど、生涯魔法の研究を続けられるような職に就けたらいいなと思ってる。
──それ、あなたにぴったり!

 大袈裟にはしゃぎながら、会話が上滑りしていく感覚がした。
 胸の痛みだけが本物で、ジェシカが教師になる未来も、ハンスが研究者になる未来も嘘みたいに聞こえた。

 ハンスが唐突に言った。

──長期休暇の度にヨルデンに戻ってくるよ。
──大変じゃない? でも、そうね。ヨルデンには校長先生がいるものね。
──そうじゃない。いや、それもあるけど……そうじゃないんだ。ジェシカ、

 ハンスがそっとジェシカに近づいた。
 その拍子に、ふわっとハンスの匂いがした。
 それと一緒に、本の匂いも一層強くなった。
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