せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです

 一部の生徒のみ恐怖で顔を強張らせたが、それ以外はこれから何が起きるのだろうと興味津々の様子だ。

「どうやって?」
「魔法じゃない?」
「嘘だあ。そんな魔法ないよ」

 生徒は授業中にも拘らず、大きな声で自由に話しだす。
 中等部しか教えていないハンスには、それが可愛いらしく映る。
 しかし、それと同時に、こんな小さな子どもでもすでにイジメを……とも思った。

「おしゃべりはそこまでにして、見逃さないように、よく見ていてくださいね」

 ハンスが手のひらを広げると、立ち上がって身を乗り出す生徒まで現れた。

 ハンスは一瞬、生徒たちを意識外にやり、ひとり集中した。
 それから少し遅れて──
 ロペス先生が手に持つ教科書から黒く細い液体が滲み出てきた。
 生徒らは一様に目を見開く。
 それは、セシルとセシルの後ろでニヤニヤしていた子どもも同じだった。

「インクだ!」

 生徒のひとりが叫ぶと、教室はまたガヤガヤし始める。

 汚れていたはずの教科書は新品のように染みひとつなくなり、インク液のほうは空中を浮遊し、ひとつの机の上に置かれたインク瓶に吸い込まれていく。
 その席には、セシルの後ろでニヤニヤしていた生徒のひとりが座っていた。
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