光王子と月夜のシンデレラ
「な、なに……」

慌てて声のする方を見てみると、黒い服を着た男がカッターナイフ片手に、受付の女性を脅して入場してきているのが見えた。
遠くで聞こえにくいが、男は何か叫んでいる。
カッターナイフをブンブン振り回しながら、私たちのいる奥の方へ向かって来そうだ。

「下がってて」

今宮くんは私を隠すように前に出て、私側の手を横に広げてくれている。
まるで守ってもらっていると勘違いしてしまいそうになるほどに。

「今宮くん……あれって……」
「わからない。相手かもしれないし、無関係かもしれない」

今宮くんの背中越しにヒソヒソ声で会話をする。
今の状況では何者なのか、何が目的かも判断がつかない。
ただ……1つ言えることは、万が一あの男と手合わせになった場合……

恐らく勝てる。
もちろん、そんなことにならないのを願うばかりだけれども。

いつこちらを襲ってきてもいいように、体勢は整えておく。
いざという時には今宮くんの前に出て、私が対峙すればいい。

「こんな作品、価値ねーんだよ!」

男はそう叫びながら、不幸にも私たちの方へ向かってきた。
……ふと、疑問が頭をよぎる。
なぜ私たちなんだろう……作品に向かって行くわけでもなく。

「お嬢ちゃ~ん、お前が人質だぁ」

そんなことを考えていた私とバッチリ目が合った男は、どんどんこちらへ近づいてくる。
大人しく捕らわれておくのと倒すのはどちらがいいのか……その時、先程の男性の近くを歩く、別の不審な男が視界に入った。

なるほど……

「佐倉さん、動くなよ」
「ありがとう。でも大丈夫、さっきの人の方を見て」
「……」
「今宮くんはあっちをお願い。私は大丈夫」

今宮くんの背中に守られながら、そっとパンプスを脱ぐ準備をする。
ヒールのある靴は、可愛いけれど私にはまだ早かったのかもしれない。

男が数メートルの所に近づいて来た時、私は今宮くんの背中を思いっきり押した。

「なっ……」
「頼みましたよ!今宮くん!」
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