光王子と月夜のシンデレラ
一旦、私は大人しく男の腕の中に捕まった。
弱々しい女の子として涙を浮かべたかったけれど、瞳はカラカラ……むしろドライアイで霞むほどだった。
ようやく気がついたけれど、会場内は非常ベルのようなものがジリリリと鳴り響いている。じきに警察も来るのだろう。

チラリと今宮くんの方を見ると、案の定、先程のもう1人の男が壁の絵に手をかけようとしている所だった。
やはり私の方の男はオトリ。
会場内の注目をこちらに浴びせている間に、絵を盗むか傷つけるのが真の目的だったのだろう。

今宮くんは男性を守るように男と対峙して、男を蹴りで怯ませた後、隙のない動きで背後に回り込み取り押さえていた。
今の動き……空手かな。構え方やその雰囲気でなんとなく感じていたけれど、予想通り……
今宮くんは強い。

さて、あっちが片付いたようだし、私の方ももういいかな。
男のみぞおちに肘打ちをし、ぐらついたところに足を引っかけると、カッターナイフの男は床へ倒れ込んだ。
念のため、手からこぼれたカッターナイフは蹴とばして遠くへやっておく。

おおぉぉ!――

会場から沸き起こる歓声と拍手で我に返る。

ひぃい……ついやってしまった。目立ちたくない、今すぐ立ち去りたい……

そんな気持ちを汲み取ってくれたかのように、注目を浴びる私の前に今宮くんが立ってくれた。
と同時に、警察がやって来て、みんなの視線はそちらに移った。

「行くよ」
「え」

この隙に会場から逃げ出すようで、今宮くんは私の手を掴んだ。

「あ、待って!く、靴が……」
「シンデレラかよ」

ははっと笑いながら今宮くんは、脱ぎ捨ててあった私のパンプスを拾ってくれた。

「裸足か……履く?それとも抱っこする?」
「ひっ!滅相もないです!は、裸足で走ります!」

抱っこされて帰るなんて、色々な意味で私の心臓が持つはずない。

「で、でも今宮くん!入口に行くには途中に警察もいるし、さすがにコッソリ出られないんじゃ……」
「ああ、大丈夫。こっち」

そう言って再び私を手を掴んだ今宮くんは入口とは反対に向かって走り出し、会場奥にある非常口から外に連れ出してくれた。

……え、なんでそんなところ知ってるの!?
色々と謎が増えるばかりの中、私は左手に今宮くんの体温を感じながら、夜のみなとみらいを裸足で駆け抜けた。
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