光王子と月夜のシンデレラ
大事なことを思い出し慌てて立ち上がろうとしたけれど、今宮くんに腕を掴まれ、また座ってしまった。

「でも!他の人も食べたら……」
「よく考えて。俺らがいた時にすでにみんな食べてたけれど、そこまで異常な状態には見えなかった」
「あ……で、でも!これから食べる人を……」
「知ってる?人には薬の無効量ってのがあって。これは薬が効かない量のことだけど……血中濃度によって決まって……この血中濃度っていうのは……」

む、難しい話になってきた……

「ふっ……佐倉さんには難しかったか」
「い、今は正常な状態じゃないからです!」
「ははっ、そういうことにしておこうか。まあ、要は佐倉さんには効くけれど、他の人ならそこまでの影響はないかもしれない」

そうかもしれない……けど……

「でも……それでも体内に入れないに越したことは……」
「確かにその通りだけど。会場でどう伝える?信用してもらえる?中学生ってこともバレるかもよ?トラブルになるリスクは?」
「……」
「色々なことと比較すると、今の俺らにできる最善は学校に報告することだと思う」

確かに今宮くんの言う通りなのかもしれない。
けれど……やっぱりこのままで帰るなんて……

「ふっ……こんな時でも他人を助けようと一生懸命なんだな」

ジレンマを感じていた時、今宮くんがそう言いながらスッと一枚の紙を出した。

「これ……名刺?」
「今日の主催者と思われる人の」
「え……いつの間に……」

今日私たちはほとんど一緒にいたけれど、今宮くんがこの名刺をもらうような場面はなかった。

私は顔を上げて今宮くんを見る。
そこには私が何を考えているかわかっていると言わんばかりの、納得した表情をした今宮くんがいた。

それは覚悟を決めたような、けれど少し悲しそうな……そんな顔だった。

「体調はどう?」
「落ち着いてきたけど……」
「なら……話を聞いてくれる?今度は俺の……特技について」
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