かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしたらカタブツ学者さまに愛されました~
ミュシカが言う「お父さま」とは、たぶんダニールのこと。あせった様子のダニールは姪っ子を叱りつけた。
「そんなわけにはいかないよ。申し訳ありません、気にしないで下さい、子どもの言うことですから」
「は、はあ……」
必死に否定されるのも微妙な気分でマルーシャの笑顔が引きつった。だがその胸にしがみつき、ミュシカが言い張る。
「やだ、お母さまがいい! お母さまにお母さましてほしいのよう!」
「そんなの駄目だよ! 今日会ったばかりの男にマルーシャを嫁にはやらないよ!」
ミュシカの我がままにクリフトが真剣に反対した。親と引き離され寂しがっている五歳の女の子に言うセリフとして、ものすごく大人げない。
「ひっ……うぇっ……いやあよぅ……!」
案の定泣き出したミュシカを抱いて、マルーシャは父親をにらみつけてしまった。
「ちょっとお父さん!」
「だ、だってだってマルーシャ」
「あああ、ミュシカが申し訳ありません!」
ダニールはあわててミュシカを抱き取る。そして「また明日、参ります」と慇懃に挨拶すると、早々に帰っていった。グズグズ泣かれては話にならないと判断したようだ。
愛想笑いで送り出したマルーシャは、ため息とともに戸を閉めた。
工房に静けさが戻り、チクタクと時計の音が響く。作業場と店を兼ねる工房にはクリフト自慢の珍妙なカラクリ時計がたくさんあって、けっきょく売れずにここで時を刻んでいるのだった。
「お父さん……言い方は選ぼうよ」
「すまん……」
小さな子の思いつきに張り合うなんて。あんなのは他のことに気持ちが向けば忘れてしまう、その場限りのおねだりのはずだ。
ダニールは独身で、生真面目だが見た目は良い。貴族ではないもののファロニア侯国の中枢にいる学者さま。結婚相手としては優良物件だ。小娘のマルーシャをどうこう思ったりはしないだろう。
「まあダニールさんから聞いた話、知らないことだらけだったから。私も返事する前に落ち着いて考えたかったけど」
「だろ?」
「だろ、じゃないでしょ」
まったく調子がいい。これまで母の親族がいることも妖精族のことも隠していたくせに。