かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしたらカタブツ学者さまに愛されました~
 マルーシャは声も出ない。ラリサとイグナートも「うへえ」という顔をしていた。だがふうっと息を吐いたダニールは平然と指先を差し出した。

「頼みます」
「あ、ええと……オシュ アン イディ イディ(痛いの痛いの飛んでいけ)

 ふわ、とマルーシャの力がダニールの手を包む。それを嬉しそうに確かめたダニールは、さらに自分でおまじないを重ねた。

ヤーラ イシュチェ(傷を癒せ)

 知らないおまじない。どうなるのかと見守るマルーシャの前で、小さな傷はふさがった。残った血を拭きとると、跡もない。ダニールは満足そうだ。

「うん、マルーシャさんのおまじない、とてもなめらかです」
「……そういうことじゃないでしょう」

 マルーシャの声が低くなり、ふるふると震えた。
 本当に説明の足りない人だ。これ怒ってもいいよね、とラリサを振り向くと強くうなずかれる。何をどうしようとしているのか、流れぐらい教えてくれてからやればいいのに!

「ダニールさん……ッ」
「最後の癒しのおまじない、傷は治るけど痛いんですよ」
「え?」

 怒る前に気になることを言われてマルーシャはぽかんとした。

「……治すのに、痛いんですか?」
「今ぐらいの傷ならチクッとする程度ですが。まあ皮膚や何かが増えたりつながったりするんだし違和感は当然なんです」
「いやあぁ」

 マルーシャの背中がゾゾゾとした。腕を抱き肩をすくめると、ミュシカがぎゅっとしてくれる。これは女性にはウケない話だとイグナートも頭を抱えたのだが、ダニールは不審な顔だった。

「痛みどめをしてもらったから大丈夫です。よく効きました、さすがですね」
「そうじゃなくてぇ……」

 どう言えばわかってもらえるんだろう。傷がふさがる過程なんて、マルーシャには少し気持ち悪かった。
 でもダニールはその反応に首をひねる。何か不都合があっただろうか。今の傷なら本当は〈痛いの飛んでけ〉もいらない。ぶっちゃけマルーシャのおまじないを体験したかっただけだ。

「んで、その石は仕上がったんだな?」

 通じ合えない話をイグナートがぶった切った。今のくだりは忘れることにし、マルーシャも気を取り直す。

「……ミュシカのと同じになりましたね」
「わあい、お母さまとおそろい!」
「これは、血で僕とつながっています」
「う、はい……」

 マルーシャの背中がまたザワザワした。
 血?
 綺麗な石だけど、血。なんだか微妙な気分だ。

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