かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしたらカタブツ学者さまに愛されました~
商人としてのメレルスの評判は、良くも悪くもなかった。あこぎでもなく、かといって世のためになるでもない。
そんなものでいい。聞き込むイグナートはうなずいた。派手なことをやられて目立つよりは。
だが人物としてはあまり好かれていないようだ。いわく、得体が知れない。嫉妬深い。意地が悪い。
どうやら政界に進出しようとして失敗した経験があるらしい。以来扱いづらくなったとか。その証言にイグナートの記憶が引っかかった。
「雨乞いって……王都で名を売るためにやったのか?」
名声を得て王侯貴族に食い込むのが目的だったのに、ダニールが邪魔をした。
「……そういうことか」
勝手な逆恨みが犯行の理由なのだ。面倒くせえ奴、とイグナートはあきれ果てた。
だが暗い執念は人を突き動かす。はたから見ればくだらなくても、ロジオン・メレルスにとっては一生の恨みなのだった。
メレルスの邸は町の中心ではないが、それなりに繁華な場所にあった。
多くの商店や工房が建ち並び、人通りも多い。邸そのものにも従業員や客の出入りがひんぱんで忙しなかった。
「誘拐、監禁しておくには人の目がありすぎる……」
すると郊外に所有するという荘園が本命かもしれない。だがそれ以外に別宅などもあるとしたら、調べるのにどれだけかかるか。ひとまず明日は町外れの倉庫を探りに行こう。
「ファロニアからの応援がほしいよ。バーベリさん、さっさと来てくれねえかな」
情けなさそうにつぶやく。
騎士団の誰かしらと協力してしらみ潰しにする。あるいはザラエの街と交渉してメレルスの関係先を一網打尽にできれば。それなら早く確実で安全だ。だが最低あと二日は誰も到着しないはずだった。
「ま、そんなの待ってたらミュシカが泣いちまうし」
イグナートが剣を捧げた侯爵の血すじであり、ファロニアを豊かに支える四季の姫の一人、それがミュシカ。あの幼女はイグナートが大切にするべきものとしてかなり上位にあるのだ。
それとは関係なく、誰であれ弱い者は助け、守る。そんな騎士としての誇りは普段からしっかりとイグナートの胸にあった。
だからこの時、大通りで出会ったひったくりのことも素通りはできなかった。
「おっと!」
逃げて走ってきた男をよけるふりでスイと足を引っかける。すると犯人は勢いのままもんどりうち、追ってきた者らが取り押さえた。
こちらに耳目が集まる。イグナートは知らん顔でス、と人波にまぎれた。
ところでイグナートは、ロジオン・メレルスの顔を知らない。人物の評判と邸の場所を探るので今日は精いっぱいだった。
だからわからなかったのだ。
この時メレルスが邸に戻ろうと通りを歩いていて、騒ぎがあった方をチラリと眺めたことを。
そしてそこに妖精族の姿を見かけて警戒心を抱いたことを。