かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしたらカタブツ学者さまに愛されました~
「ほう」

 面白そうなうすら笑いで外から入ってきたのはロジオン・メレルスだった。後ろには彼の忠実な家令ヨアニムも従っている。もちろんどちらもマルーシャとは初対面だが。

「ジートキフ夫人はなかなかの使い手のようだ」
「あなたは……メレルス、ね」

 ジートキフ夫人と呼ばれたことに照れている場合ではない。
 今マルーシャに危害を加えようとする者など、メレルスの他にいないのだ。しかもおまじないを使って。

「私をご存じですか。それは光栄」

 メレルスはゆがんだ笑顔を浮かべた。

「だが呼び捨てにするとは気に入らない」

 ちょい、と指で合図する。後ろからヨアニムが進み出た。

「手荒なことはしませんよ。抵抗しなければ、ですが」

 男二人と対峙して、マルーシャは懸命に考える。どうするべきなのか。
 ――服の胸元にしまってあるペンダントが熱くなった気がした。



 夜も更けつつある頃、ダニールとイグナートの部屋の扉が慌てた様子で叩かれた。

「イグナート、起きてる?」

 ラリサだ。焦りがにじんだ声。

「起きてるよ」

 開けてみると、ラリサが寝間着のミュシカを連れて立っていた。顔色は蒼白だった。

「マルーシャがいないの」
「は!?」

 うっかり上げた大声を飲みこんで、イグナートは二人を室内に入れる。ラリサが珍しく取り乱し震えているのがわかった。

「どういうことだよ。部屋にいたんだろ?」
「洗濯に行ったのよ。なかなか戻らないと思って見に行ったら、服だけが落ちてた」
「あのまま……? マルーシャさん、そんな」

 苦し気にダニールはつぶやいた。その洗濯に行くところで自分と言葉を交わしたのに。
 頬を染めてうつむいていた姿を思い、胸がしめつけられた。洗濯場は外とつながっている。連れ去るには楽な場所だ。

「さらわれたのか? メレルスか? こっちの動きに気づいてたのかよ」

 イグナートがうめく。ダニールは深呼吸し必死で落ち着こうとした。
 絶望している場合じゃない。マルーシャを追い、取り戻すのだ。

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