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かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしたらカタブツ学者さまに愛されました~
 二十年ほど前、アレーシャと喧嘩していたファロン侯爵のことを思い出したのだ。閣下はけっこうな頑固者。正直、怖い。

「それは明日訊いてみましょ。あ、明日は新作のお引渡しもあるんだった」
「そうだそうだ、じゃあダニールくんの方はお断りを」
「かち合ったら待っててもらえばいいでしょ!」

 逃げようとするクリフトをマルーシャは叱りつける。だって、どちらも嬉しい出来事だ。
 まだ見ぬ母の国の話をもっと聞きたい。
 それに時計を納品すれば――残金が受け取れる!

「やっとクジモさんに借金を返せるわ」

 クジモというのはクリフトの友人だ。
 クリフトは時計職人として良い腕を持っているのだが――何かと丹精こめすぎる(・・・・・・・)癖があった。おかげで注文以上の美麗な仕上げや細工をほどこしがちで、あまり利益率が良くない。そのせいで貧乏なのに、反省のかけらもないのだ。
 生活費が足りないと青ざめるマルーシャをあわれんで金を都合してくれていたクジモだったが、いいかげん返せと先日言われた。まもなく入金があるのでと伝えたらホッとされたのは、あちらにも金が入り用な何かがあるのだろう。なのにクリフトはケロリと言う。

「返さなきゃだめか」
「ダメに決まってるでしょ!」

 マルーシャは父を叱りつけた。クリフトは悪人ではないが、やや常識が抜け落ちているのかもしれない。

「あんまり不義理すると、縁を切られるんだからね?」
「えええ、あいつはいい奴だよ、そんなことしないって」
「じゃあお父さんは、クジモさんに対していい奴なの!?」

 迷惑ばかりかけていて、あまりいい事をしてあげた記憶はないと思う。娘の立場から見るのと男同士では感じ方が違うのだろうが、なんだか申し訳ないのだ。
 叱られてしょんぼりするクリフトを見て、マルーシャは話を戻した。

「……お父さんの心配は、私が〈春告げ〉かどうか、てとこでしょ」
「……まあな」
「お母さんと同じなら、嬉しいよ私」

 力強く言い切るマルーシャに、クリフトは懐かしむようなまなざしを向けた。
 アレーシャも心の強い女だったな、と思った。



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