かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしたらカタブツ学者さまに愛されました~
「おやおや、お騒がせして起こしてしまいましたかな」

 メレルスはニヤリと笑った。獲物を見せて自慢する猫のようだ。なるべく冷静にルスランは尋ねた。

「そちらは?」
「まだシラを切りますか。ジートキフ夫人でしょう」

 その女性――マルーシャは静かに頭を下げた。自分を見つめる男性が、少しダニールに似ていると思った。この人がルスランか。こんな形の初対面なのは気まずいかぎりだが、マルーシャはできる限りきちんと挨拶した。

「今晩は。マルーシャ・アヴェリナ・ジートキフです」

 メレルスの前なので、そう名乗った。本当の名はマルーシャ・アヴェリン。でもジートキフ夫人を詐称する。アヴェリナ・ジートキフとは、アヴェリン家からジートキフ家に嫁いだ者という意味だ。

「アヴェリン――?」

 ほんの少し開いた扉の中から声がして、マルーシャはそちらを向いた。リージヤが目を見張っていた。
 マルーシャ・アヴェリン。リージヤはその名前に心当たりがある。
 姉アレーシャが愛した男は、クリフト・アヴェリンという名の時計職人だった。そして生まれた娘にはマルーシャと名付けたと手紙がきた。
 ならば連れてこられたこの女性は、姉の娘――自分の姪だ。

 二十年前、ファロニアでからくり時計の展覧会があった。そこを訪れた若くひょうきんな男クリフトは職人としてはとてもひたむきだったとか。
 しかしその男はアレーシャと心を通わせ、あげく姉は故郷を出奔した。その時まだ六歳だったリージヤは、誇り高くしっかり者の姉が隠し持っていた情熱に驚いたのだ。
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