かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしたらカタブツ学者さまに愛されました~
 今いる人員のうちの物理担当イグナートが布と縄を手に駆けこんできた。

「ぐえ、さみぃ……」

 軽口も凍る寒さの中、イグナートは手早く猿ぐつわを噛ませる。それを見てダニールは自分が飛ばしたおまじないを解いた。

「むー。ぶふー」
「息してるな、よしよし」

 生存を確認しつつ、イグナートは容赦なく手足を縛る。メレルスはおまじないも動きも封じられた。
 そして彼の家令ヨアニムは、命じる者がいなくなり何もできずに立ち尽くしていた。それもイグナートが縛り上げる。為すすべもなくヨアニムは縄についた。

「ミュシカ」

 最後にダニールがうながすと、ミュシカは愛らしく冬に語りかけた。

ザイン、プラツミルテ(冬よ、おさまって)

 その声に応え、冬の空気が名残惜しげにかき消えていった。そして涼しい秋が漂い始める。

「マルーシャさん!」

 そんな季節の移り変わりなどおかまいなく、ダニールが駆け寄ってきた。

「ダニールさん……!」

 ホッと微笑んだマルーシャは、歩み寄るまでもなくダニールの腕の中だった。え。

 ――――えええ!?

「マルーシャさん――よかった」
「ダニールさん、あの」
「よかった無事で。あなたに何かあったらと言ったのに、こんなことになって」

 腕にその存在を確かめるダニールがやや震えているのにマルーシャは気づいた。心配をかけてしまったことが申し訳なくて、そっとダニールの背中に手を回す。

「……ごめんなさい。でも信じてたんです、助けにきてくれるって」
「そんなの当然です。あなたは僕の大切な人ですから」

 抱き合う二人を全員がぽかんと見つめる。だがミュシカはそうもしていられなかった。そこにいるのは本当の両親だ!

「お母さま、お父さま!」
「ミュシカ――!」

 リージヤとルスランは前に出て、愛おしい娘を抱きしめた。ミュシカは小さな体いっぱいに喜びをあふれさせ両親にすがりつく。引き離されてから一ヶ月以上もたっているのだった。

< 128 / 144 >

この作品をシェア

pagetop