かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしたらカタブツ学者さまに愛されました~
 言わなければならないのはダニールも同じなのだ。
 このままファロニアへ到着してしまったら、マルーシャとは公の間柄でしかなくなってしまう。ともに旅をして戦った、近しい人でいられるのは残りわずかな間だけだ。

「あなたを、抱きしめたりしてすみませんでした」
「いえ――」

 具体的な謝罪にマルーシャは顔を赤らめた。
 それはまあ、いきなりの行動ではあったけど。ああいう場合なら仕方ない範囲内――でもない気がする。二人は別に、そういう関係ではなかったのだから。

「やはり……嫌だったでしょうか?」
「そんな」

 たたみ掛けられても困る。実は嬉しかったが、そんなこと恥ずかしくて言えなかった。

「今思えば失礼にもほどがあります。でも僕はあの時、気持ちを抑えられなかった」
「え、あの……」
「僕はあなたを失いたくない。できれば隣にいてほしい。そう感じたんです。だからあなたを取り戻したあの時、つい手が伸びた」
「ダニールさん……」

 マルーシャは聞きながら、胸が高鳴るのを感じていた。息を吸うのが難しくなる。
 その言葉の意味は――恋とか愛とかだと受け取っていいのだろうか。
 おびえと期待がない交ぜになりつつマルーシャは向かい合う人を見上げる。ダニールの黒い瞳が熱を帯びた。

「僕にはあなたが必要なんです。旅が終わっても、僕のそばにいてほしい――そう感じるのを許してくれますか」

 ダニールのまなざしは真っ直ぐで、やわらかくて、マルーシャへの尊敬に満ちていた。

 告げられた言葉は甘くない。だけどとても誠実だとマルーシャは思った。
 愛しているとか大好きだとか、そんな言い方ではなく。
 必要だと感じるのを許してほしい――そんな告白、聞いたことがなかった。でもとてもダニールらしい。マルーシャは目をうるませながら花が咲くように笑った。

「はい」
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