かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしたらカタブツ学者さまに愛されました~
宿に戻って案の定さんざんからかわれた二人は、やや寝不足のままザラエを旅立った。
夜に部屋が分かれてからも、マルーシャはラリサから、ダニールはイグナートから根掘り葉掘りされ、ついでに男女としての進み方なども伝授されかかって、悶々として眠れなかったのだ。
今は馬車の中に二人だけだ。クレヴァ夫妻は「まあまあ、後は若い二人で」と言い残し、意気揚々と馭者台に陣取ってしまった。付き合いはじめの二人なのだから当然の配慮ではある。
――そして実はダニールには、少しだけマルーシャに確かめたいことがある。今のうちに訊いてみてもいいだろうか。
正面に座る恋人に、ダニールは緊張のまなざしを向けた。
「マルーシャ、あの――連れ去られた時は、何もされなかったかな」
「――なにも?」
言いにくそうにするダニールにマルーシャは訊き返した。その素直な声でダニールはうろたえる。
「いや、だから、その」
――知りたかったこと。それは誘拐された時にマルーシャが受けた被害について。
メレルスは性根のゆがんだ粘着質の男だ。そんな奴にマルーシャが連れ去られてダニールの胸はどす黒く染まった。それが乱暴な救出劇の原動力となったのだが、その後マルーシャと想いを通じさせあらためて不安にかられたのだった。
ダニールが口ごもったおかげで思い当たったマルーシャは心臓がキュ、となるのを感じた。もしかして不埒で卑猥なことをされたと疑っているのだろうか。
「え、と」
ちょっと悲しくなりかけて気を取り直す。
これはダニールなんだから。疑うとかじゃなく心配しているだけ。きっとそう。
「あの、私」
「あ。いや、いいんだ」
ダニールは言葉をさえぎり片手で顔をおおってしまった。自分で尋ねたくせにマルーシャがためらうようにしたら聞くのが怖くなる。
「そうですね、連れて行かれたんだから何もってわけにはいかない。僕は気にしないことにします」