かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしたらカタブツ学者さまに愛されました~
「ちょ、ちょっと」

 動揺からか丁寧語に戻っているダニール。勝手に納得されてマルーシャはムッとした。後ろめたいようなことは何もない。誓って。

「――指一本、ふれられてません!」

 キッと言い返してしまった。だって腹が立つ。勝手に思いこまれるなんて嫌だ。
 あの時は男二人相手に抵抗を諦めたふりで自分からついていった。本当に手をかすられてすらいないのだ。

「ゆび、いっぽん――?」
「そうよ」

 ダニールがきょとんとした。そして眉を寄せてグルグル考え始める。

「いや、だって。誘拐だったんだよ? そこはほら、腕をねじあげるとか、叫ばれないよう口をふさぐとか、抱えて引きずっていくとか――」
「は?」

 ひと言を口にすると、堰をきったようにダニールは気持ちを吐き出した。

「――あいつがマルーシャにさわったかと思うと僕は苦しくて悔しくて。そりゃいちばん嫌で気持ち悪かったのはマルーシャなんだから僕がそんなことを言っちゃいけないと思う。だけどあいつがマルーシャの手首をつかんだなら僕はそこに清めのおまじないをかけたいし僕が同じところをそっと握り直すし撫でるし口をふさいだなら僕はやっぱり」
「待って! 待ってよダニール」

 目をそらしたまま流れるようにブツブツ言うダニールをとめる。久しぶりの早口だった。これは研究者(オタク)ではなくマルーシャの恋人(追っかけ)としてのものだけど。

「ダニール、なにも……って、そういう?」
「え……そういう、ってどういう?」
「や、あの」

 マルーシャはもごもごした。はしたなくて言えない。婦女に対する暴行じゃなく普通の暴力のこと? なんて。

「……本当に、何もなかったの」

 もじ、と小さく言ってうつむいていると心配そうにダニールが近づいた。マルーシャの顔をのぞきこむ。

「マルーシャが嫌な目にあってないなら、いいんだ」
「平気よ」

 目を上げると黒い瞳があたたかくマルーシャを包んでいた。
 ああこの人は、もう――。

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