かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしたらカタブツ学者さまに愛されました~
「こら、ひとりで走らない約束だったろう、ミュシカ?」
「ごめんなさい、お父さま。でもお母さま、みつけたから!」

 その言葉にワッと歓声が上がった。マルーシャはこの男の後妻に入るのだと誰もが思ったのだ。
 相手が子持ちの再婚なのは、やや引っかかる。だがどうやら金持ちっぽいし、まだ若いのだから悪くはない。
 父親は謹厳実直に見えるが娘は愛嬌たっぷり。ならば実は愛情深い男なのだろう。娘がマルーシャにべったり懐いているのも好印象だった。きっと仲の良い家族になれるはず。

「なんだいマルーシャ、そんなことになってたなら教えてくれなきゃ!」
「よかったなあ、幸せになれよ!」

 口々に祝福されて、マルーシャとダニールは周囲の誤解に青ざめた。
 そう思われるのも無理はないけど、二人はそんなんじゃない!

「あの、あのね、違うのよ」
「お母さま、ちがうって? しあわせじゃないの?」

 どう言い訳したものか口ごもると、ミュシカに不安げにされた。それでますます皆がはやし立てる。

「なんて可愛いお嬢ちゃんだろ」
「そうだよな、これが幸せじゃなかったらなんなんだい」
「うん! わたしお母さまだいすき!」

 満面の笑みで言い切るミュシカを否定するわけにもいかなくて、マルーシャは悩んだ。アワアワとダニールに視線をやると、市場にあふれる祝福の圧力に目を点にし動きを停めていて――どうして? この人、研究とか使者の仕事とかはできるのに!
 諦めを感じ、マルーシャは仕方なく宣言した。

「私、結婚するわけじゃないから!」
「そんなぁ! お母さまになってよう!」

 悲しそうにすがりつくミュシカをよいしょと抱き上げる。近くなった顔は愛くるしくて、思わず頬ずりした。

「もちろんミュシカのこと大好きだし、お母さまの代わりをするのはいいのよ。そのお話も、おうちでしましょうね?」
「ほんと?」
「うん、ほんと」

 マルーシャに優しくうなずかれて、やっと安心したらしい。ミュシカはほわほわと笑った。人々もつられてほっこりしたが――。

「ユーリィ! ユーリィ、どこ?」

 ――若い女性の声が響き、市場の空気はピリッとなった。
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