かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしたらカタブツ学者さまに愛されました~
すぐそこの角から走り出てきてキョロキョロする女性の手には、小さな靴が片方ぶらさがっている。皆の視線がそちらに集まり、気づかわしげな声が飛んだ。
「どうしたのさ、ノンナ? ユーリィがいなくなったのかい?」
「そうなの、うちの前で遊んでたのに」
泣きそうになりながら息子を探しているその女性は、一本裏の通りにある木工屋の嫁、ノンナ。ユーリィのことはマルーシャも知っているが、まだ二歳かそこらの男の子だったはずだ。
ノンナは震えながら、手にある片方だけの靴を示した。
「落ちてたの。ユーリィの靴よ。歩いてどこかに行ったんじゃないんだわ」
――連れ去りか。どうりでノンナが青ざめるわけだ。
事件にざわつく市場の中で、スッとダニールがノンナに近づいた。
「それは、いなくなった子の靴ですね?」
見たことのない男から尋ねられ、ノンナは警戒する顔になった。マルーシャが慌てて口をはさむ。
「あやしい人じゃないわ、私の知り合いで」
「靴を見せていただいても?」
「ダニールさん?」
落ち着いてノンナの手から靴を取ったダニールは、ほんの小声で唱えた。
「シェイディ コン ブラーデレ」
マルーシャは、ふわ、と何かを感じたような気がした。風の行方を追うように顔を上げる。
そんなマルーシャをチラリとしてから、ダニールは靴をノンナに返した。
「早く見つかるといいですね」
「は、はい?」
首をひねるノンナに背を向け、ダニールはさっさと歩き出した。
「追います」
「え? え?」
きょとんとするマルーシャの腕からミュシカを抱き取る。ダニールにかじりついたミュシカはニッコリ笑った。
「お父さまのおまじない、やっぱりきれい!」
「おま、おまじない?」
確かに何かを唱えていたのは聞こえたけど。マルーシャの知らない言葉だった。
「僕は妖精学の研究者ですよ。妖精のおまじないは専門分野です」
「おまじないが専門?」
そんな可愛い専門家ってあるだろうか。ぽかんとしながらマルーシャはダニールの隣をついていった。
「どうしたのさ、ノンナ? ユーリィがいなくなったのかい?」
「そうなの、うちの前で遊んでたのに」
泣きそうになりながら息子を探しているその女性は、一本裏の通りにある木工屋の嫁、ノンナ。ユーリィのことはマルーシャも知っているが、まだ二歳かそこらの男の子だったはずだ。
ノンナは震えながら、手にある片方だけの靴を示した。
「落ちてたの。ユーリィの靴よ。歩いてどこかに行ったんじゃないんだわ」
――連れ去りか。どうりでノンナが青ざめるわけだ。
事件にざわつく市場の中で、スッとダニールがノンナに近づいた。
「それは、いなくなった子の靴ですね?」
見たことのない男から尋ねられ、ノンナは警戒する顔になった。マルーシャが慌てて口をはさむ。
「あやしい人じゃないわ、私の知り合いで」
「靴を見せていただいても?」
「ダニールさん?」
落ち着いてノンナの手から靴を取ったダニールは、ほんの小声で唱えた。
「シェイディ コン ブラーデレ」
マルーシャは、ふわ、と何かを感じたような気がした。風の行方を追うように顔を上げる。
そんなマルーシャをチラリとしてから、ダニールは靴をノンナに返した。
「早く見つかるといいですね」
「は、はい?」
首をひねるノンナに背を向け、ダニールはさっさと歩き出した。
「追います」
「え? え?」
きょとんとするマルーシャの腕からミュシカを抱き取る。ダニールにかじりついたミュシカはニッコリ笑った。
「お父さまのおまじない、やっぱりきれい!」
「おま、おまじない?」
確かに何かを唱えていたのは聞こえたけど。マルーシャの知らない言葉だった。
「僕は妖精学の研究者ですよ。妖精のおまじないは専門分野です」
「おまじないが専門?」
そんな可愛い専門家ってあるだろうか。ぽかんとしながらマルーシャはダニールの隣をついていった。