かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしたらカタブツ学者さまに愛されました~
 マルーシャに娘の姿を重ね、侯爵は深い深い後悔を吐き出す。

「家族そろってこちらに招けばよかった。あの馬鹿娘と阿呆婿と喧嘩すればよかった。ずっと意地を張って何をしていたのやら。あんなに若くしていなくなると思わないじゃないか」
「お祖父さん……」
「おまえにも、もっと幼いうちに会いたかった。アレーシャに抱かれている姿を見たかったよ」

 乗り出して伸ばす手がマルーシャの頬にふれる。もうミュシカのように幼くはない、大人のすっきりした顔立ち。
 マルーシャはその手を優しく取った。
 父も母も、心に従って生きた。だがそれによって捨てたものも傷つけたものもあるのだと、この手は教えてくれる。

「ごめんね、お祖父さん。知っていたら会いに行きたいっておねだりしてたわ」
「アレーシャは何も言わなんだか。頑固な奴だ、誰に似たかな」
「……お祖父さんでしょ?」

 言われて侯爵は苦笑いした。
 たくさんのものを背負ってきた、そのがっしりした手。ぎゅっと握ってマルーシャは笑い返す。
 母は幸せに暮らしていたと祖父に伝えたいと思った。母はずっと妖精の誇りを持ち続けていたと。

「お母さん、私におまじないを教えてくれたんですよ」
「……そうか」
「私、春の歌うたえます。ちゃんと伝えてるってダニールも太鼓判です」
「そうか、そうか。アレーシャは〈春〉を捨ててはいなかったんだな」

 侯爵がうなずく。
 母アレーシャはいつも故郷とつながっていたのだ。春という季節の恵みによって。だからマルーシャは、それを継いでいきたいと思う。

「――私は春告げの姫になれるでしょうか。お母さんができなかったこと、私がかなえたい」

 マルーシャが言うと侯爵は目を見張り――そして、うるませた。

 風が吹く。
 秋の陽ざしに透けて、マルーシャの淡い栗色の髪が薄紅に輝いた。それは春をその身に宿すしるし。

 本当に春はファロニアに戻ってきたのだ。
 長い時を越えて。

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