かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしたらカタブツ学者さまに愛されました~
そして春を告げる
✻ ✻ ✻
ファロン侯爵邸の庭園に、あまり使われない一角がある。
蔦のからまる四阿と、それを囲む花壇や生け垣。今は紅葉が美しい。
ここは四季の庭。季節に呼びかける時、姫たちはここで歌うのだった。
今日はマルーシャがその中心に立っていた。
ここで愛し子として春の力を借りることができるか試す。春告げの姫にふさわしければ、深まる秋の中でもこの庭に春を呼べるはず。
見守るのはダニール、そして侯爵。ザラエから戻った実務家バーベリや、ミュシカとルスラン夫婦もいた。
「おまじないは覚えてるね、マルーシャ」
確認するダニールを振り向き、マルーシャは小さく笑う。
そのおまじないは、ザラエの街でさんざんミュシカが練習していたものだ。それを〈冬〉ではなく〈春〉にして語りかける。
「それでは、やってみなさい」
侯爵が力強く孫娘をうながした。マルーシャはうなずく。
大地に根をおろす草花。
降りそそぐ光。
ファロニアの空をゆく風。
マルーシャの体に、土も水も光も風も、何もかもがあふれるような気がした。
「ヴェーナ、クムディ メ サイルース」
マルーシャは春に告げた。すぐそこに話しかけるように――だって春はもう、マルーシャを囲んでうずうずしている。
すぐにミュシカが楽しげな声をあげた。
「うわあ!」
四季の庭にやわらかい春が満ちた。
うずまく風とともに木々が黄緑に萌える。
どこからか花びらが舞い降り、蜜が香る。
それは春の、祝福――。
空に手を伸べたマルーシャは、春が嬉しそうに自分を迎えてくれたのを感じた。そして春に応えるようにマルーシャの内側で何かがトクンと息づく。
それは懐かしげにささやいて――。
――ただいま、春。
マルーシャの目に涙があふれた。
お母さん。
ファロン侯爵邸の庭園に、あまり使われない一角がある。
蔦のからまる四阿と、それを囲む花壇や生け垣。今は紅葉が美しい。
ここは四季の庭。季節に呼びかける時、姫たちはここで歌うのだった。
今日はマルーシャがその中心に立っていた。
ここで愛し子として春の力を借りることができるか試す。春告げの姫にふさわしければ、深まる秋の中でもこの庭に春を呼べるはず。
見守るのはダニール、そして侯爵。ザラエから戻った実務家バーベリや、ミュシカとルスラン夫婦もいた。
「おまじないは覚えてるね、マルーシャ」
確認するダニールを振り向き、マルーシャは小さく笑う。
そのおまじないは、ザラエの街でさんざんミュシカが練習していたものだ。それを〈冬〉ではなく〈春〉にして語りかける。
「それでは、やってみなさい」
侯爵が力強く孫娘をうながした。マルーシャはうなずく。
大地に根をおろす草花。
降りそそぐ光。
ファロニアの空をゆく風。
マルーシャの体に、土も水も光も風も、何もかもがあふれるような気がした。
「ヴェーナ、クムディ メ サイルース」
マルーシャは春に告げた。すぐそこに話しかけるように――だって春はもう、マルーシャを囲んでうずうずしている。
すぐにミュシカが楽しげな声をあげた。
「うわあ!」
四季の庭にやわらかい春が満ちた。
うずまく風とともに木々が黄緑に萌える。
どこからか花びらが舞い降り、蜜が香る。
それは春の、祝福――。
空に手を伸べたマルーシャは、春が嬉しそうに自分を迎えてくれたのを感じた。そして春に応えるようにマルーシャの内側で何かがトクンと息づく。
それは懐かしげにささやいて――。
――ただいま、春。
マルーシャの目に涙があふれた。
お母さん。