かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしたらカタブツ学者さまに愛されました~
 ミュシカが踊るように駆けてくる。

「マルーシャお母さま! これでわたしといっしょね!」

 マルーシャは抱きついてきた少女を受けとめた。これから二人は正式に〈春〉と〈冬〉として並ぶのだ。

「うん。ミュシカの方が先輩よ? よろしくお願いします」
「せんぱい?」

 首をかしげるミュシカとともに辺りを見回した。
 よろしく、春。
 よろしく、ファロニア。

「――本当に、すごい〈春〉だった。記録を調べた限りでは一番濃厚に手応えのある儀式だったな。でも書き記すなら冷静にと考えると同等なことが過去にあった可能性もあるし確かに僕が今日の儀式を記述するとしていかに客観的に書けるかというと微妙に自信がなくなるんだが」

 しゃべり始めはマルーシャのことを愛おしげに見つめていたのに、考えながらダニールはどんどん学者の顔の早口になっていく。マルーシャはがっくりした。

「また私のこと研究対象にしてる」
「え、ああ。そうだね」

 素でそれを肯定する。侯爵はわざと難しい顔をしてつぶやいた。

「……その前に妻とするべきなのだが。こんな男に嫁にやってよいものか……」
「あ、その」

 やっと理解して慌てるダニールを、皆で笑う。
 いつか落ち着いたら結婚をとダニールがたどたどしく申し込み、マルーシャがうなずいたのは昨日のこと。でもそれはまだ誰にも言っていない。なのに皆はとっくに二人を婚約者のように扱うのが不思議だ。

 来たばかりのファロニアだが、不思議とマルーシャはしっくりとなじんでいた。
 妖精の血を濃く継いでいるからか。アレーシャの想いのおかげか――それとも、マルーシャがファロニアを愛そうと決めたからかもしれない。
 ここでマルーシャは生きていく。ダニールと並んで。
 マルーシャは愛おしい世界を見遥かし、大きく息を吸った。なんて幸せなんだろう。
 この日マルーシャは春と重なった。そしてこれからは毎年、春を招く。
 愛すべきファロニアのために。
 愛した人のために。



   了
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