かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしたらカタブツ学者さまに愛されました~
 ミュシカが踊るように駆けてくる。

「マルーシャお母さま! これでわたしといっしょね!」

 マルーシャは抱きついてきた少女を受けとめた。これから二人は正式に〈春〉と〈冬〉として並ぶのだ。

「うん。ミュシカの方が先輩よ? よろしくお願いします」
「せんぱい?」

 首をかしげるミュシカとともに辺りを見回した。
 よろしく、春。
 よろしく、ファロニア。

「――本当に、すごい〈春〉だった。記録を調べた限りでは一番濃厚に手応えのある儀式だったな。でも書き記すなら冷静にと考えると同等なことが過去にあった可能性もあるし確かに僕が今日の儀式を記述するとしていかに客観的に書けるかというと微妙に自信がなくなるんだが」

 しゃべり始めはマルーシャのことを愛おしげに見つめていたのに、考えながらダニールはどんどん学者の顔の早口になっていく。マルーシャはがっくりした。

「また私のこと研究対象にしてる」
「え、ああ。そうだね」

 素でそれを肯定する。侯爵はわざと難しい顔をしてつぶやいた。

「……その前に妻とするべきなのだが。こんな男に嫁にやってよいものか……」
「あ、その」

 やっと理解して慌てるダニールを、皆で笑う。
 いつか落ち着いたら結婚をとダニールがたどたどしく申し込み、マルーシャがうなずいたのは昨日のこと。でもそれはまだ誰にも言っていない。なのに皆はとっくに二人を婚約者のように扱うのが不思議だ。

 来たばかりのファロニアだが、不思議とマルーシャはしっくりとなじんでいた。
 妖精の血を濃く継いでいるからか。アレーシャの想いのおかげか――それとも、マルーシャがファロニアを愛そうと決めたからかもしれない。
 ここでマルーシャは生きていく。ダニールと並んで。
 マルーシャは愛おしい世界を見遥かし、大きく息を吸った。なんて幸せなんだろう。
 この日マルーシャは春と重なった。そしてこれからは毎年、春を招く。
 愛すべきファロニアのために。
 愛した人のために。



   了
< 144 / 144 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:10

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

拳にモノを言わせますけどよろしくて?

総文字数/112,718

ファンタジー170ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
婚約を破棄されたので――殴り返しますわね! 〈剛力〉加護持ち姫、 隣国王弟殿下の後妻になりますが義理息子が天使です! ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ 〈剛力〉の加護を持つリュティシア王女は、隣国へ輿入れした だが顔合わせの時に起こった事故で、婚約者の王子は面目丸つぶれ 婚約破棄を言い渡される しかし王女を追い返したりすれば外交問題 他に結婚できる相手を探せ――と白羽の矢が立ったのは 先妻を亡くし、6歳の息子がいる王弟殿下! ――待って、この義理息子、可愛すぎるんですけど!? ●リュティシア 〈剛力〉の加護を持つ姫君 ●フェリスベルト 妻に先立たれた王弟 ●エドゥアルド 母を知らない男の子 ※性根の腐った人・心底からの悪人・度し難いバカなどは登場せず、 比較的ストレスの少ない仕様です ※でも事件は起こるし、ヒロインは敵をぶっ飛ばします ※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています
温厚柔和な若旦那さまは、愛のためなら喧嘩上等!

総文字数/31,219

歴史・時代33ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
「――俺が、怖いか?」 茜を貫く鋭いまなざし。 藤ヶ森 徹はいつも柔和な遊び人のお坊ちゃんだったはずなのに――。   ❖ ❖ ❖ 茅原 茜は呉服商の藤ヶ森家へ女中奉公に来た。 そこで出会った徹は、誰にでも優しい社交界の人気者。だけど何故か茜のことをかまってきて――? 明治末期。 いまだ西洋と国風の間で揺れる東京市で、新しい風を求める男に翻弄されながらも凛々しく前を向こうとするヒロインのシンデレラストーリーです。 ◆茅原 茜(かやはら あかね) 財界人の茅原が、妾に産ませた娘。母は元芸者。 生まれのせいで軽んじられてきたが……。 ◆藤ヶ森 徹(ふじがもり とおる) 呉服商の妾腹の次男。境遇が似た茜が気になっていく。 遊び人の仮面をかぶるが水面下で企むことがあり……。 ※33話、3万千字ほどの短編です! ※作中に特定の社会的地位をおとしめるような表現・用語が使用されていますが、当時の社会状況を反映させたもので差別的意図はありません。 旧習を打ち破ろうとする姿が主題ですので、演出としてご了承下さい。
表紙を見る 表紙を閉じる
貧乏男爵令嬢のルーシーは、王立学園の新聞部員。 ルーシーの目は学園内の恋愛沙汰を見逃しはしない―― だって貴族の恋も婚約も、 すべて政治的な意味を持つものだから! さあ今日も、いさかう声が聞こえてきた……って待って! ローランド王子が婚約破棄宣言ですって!? これは取材のしがいがある案件ですよ……! だから侯爵令息のアーサーさん、 邪魔しないで下さいぃぃっ!!

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop