かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしたらカタブツ学者さまに愛されました~
「あ」

 ミュシカがあたりを見回した。ト、と感触があったのだ。
 それはおまじないがユーリィにたどり着いたあかし。もちろんミュシカにもこのおまじないが追えていた。

「ミュシカにもわかったね。近いよ」
「この辺りにいるんですか?」

 ここは町外れに近い街道だった。もし町から連れ出されてしまったら。本当に誘拐だったら。
 マルーシャは必死で景色を見つめた。おまじないの跡がキラキラと視界に浮かぶような気がした。

「あ! あれ!」

 弾かれたように駆け出す先にはガタゴトと行く馬車がいた。町の端を流れる川辺にある粉ひき小屋の馬車だ。荷台に小麦の袋を積んでいる。そのすき間にチラリと茶色い頭が見えた。

「待って! 停まって! 荷台に子どもが乗ってるの!」

 全力で追いかけて叫ぶマルーシャにダニールは慌てた。こちらはミュシカを抱いていて走れないのに。
 相手が人さらいなら、馬にムチを入れて逃げてしまう。そうなれば馬の気をそらすしか――ダニールは身がまえたが、馬車は停まった。

「なんだあ、俺のことか?」
「そうよ、おじさん。荷台を見て」
「あん? ありゃあ、この子は!」

 粉ひき人夫はパン屋に小麦粉を届けていたのだ。そのすきに、はす向かいの家のユーリィが荷台によじ登った。小麦袋の陰に隠れたのはただの思いつき。靴が片方ぬげたのも、登る時にぶんぶん足を振ったせいだ。
 そうして隠れんぼに成功したユーリィは満足したらしい。馬車に揺られてウトウトと、お昼寝を決め込んでいた。

「もう、ユーリィったら。お母さんが心配してるのに」

 子どものいたずらだったことで安心して、マルーシャはユーリィを抱き上げた。馬車を町に戻してもらうのは申し訳ない。自分で送り届けるつもりだ。

「あ、僕が」
「いえ、ミュシカもいるし」
「わたしあるく! もうおおきいもん!」

 お姉さんぶるミュシカをおろし、ダニールは眠る男の子をマルーシャから奪い取った。上着に小麦粉が散る。仕立ての良い服が台無しで、マルーシャは頭を抱えたくなった。

「ああもう、だから言ったのに」
「あ――いえ、気にしないで下さい」

 粉にまみれた自身を見て、ダニールがかすかに笑ったような気がした。照れたような笑み。そうされると意外と可愛げがある、と失礼にもマルーシャは考えた。相手は十二も歳上の男性なのに。
 なんだか照れてしまって、マルーシャは体をバンバンはたいてごまかした。

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