かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしたらカタブツ学者さまに愛されました~
「イグナート、遅れて悪かった」
「おう」
ダニールに気安い声をかけられた赤毛の男は、マルーシャにもニカッと笑ってみせた。やはりこれが騎士団員だというイグナートのようだ。
「迷子探しの噂は立ってたから心配しなかったけどさ」
「おまじないは人の目についてないと思うが」
「おまえとミュシカはめっちゃ目立ってたみたいだぞ、アホめ」
なかなか容赦ない。友人だと言っていたが、気の置けない相手なのだろう。妻のラリサもおおらかな笑顔だ。
「市場でねえ、マルーシャさんの夫と娘があらわれたって言われてたわ」
「ひゃあ!」
マルーシャは悲鳴をあげた。ちゃんと否定したのに、市場のみんなったら面白がりすぎだ。
青くなったマルーシャをラリサは楽しげに見つめた。
「ミュシカがお母さまって呼んだせいでしょう? ごめんなさいね」
「いえ……私でミュシカの気がまぎれるなら別にいいんですけど」
「わあ優しい! ミュシカよかったわね」
「うん!」
ミュシカは腕にくっつきマルーシャに甘える。こんな可愛い子になつかれちゃあ、ご近所でからかわれるぐらい仕方ないかな、とマルーシャは思ってしまった。
「ええと、とにかくユーリィの家がすぐそこだから送り届けます」
「そうね……ってダニール、あなた粉まみれ!」
「あ。この子、粉ひき馬車にもぐり込んでたので……」
恐縮してしまったマルーシャに、夫妻はそろって首を横に振った。
「こいつが悪いのはわかってるから」
「そうよ気にしないで」
「どうしてだ? 女性に物を持たせたりするなと言ったのはおまえだろう」
ダニールが困惑気味に抗議する。というと、この学者先生は女性の扱いについてイグナートから教わったのか。
「子どもは荷物じゃねえし。あとな、その上着には裏地ってもんがついてんだ。この場合の正解は、上着でくるんで抱いてくること! 融通きかねえよなァ」
「う……そうか。確かに」
「ま、汚してしまったものは仕方ないわ。とにかくこの子をお母さんに渡しましょう。案内してくれるかしら?」
しゅんとするダニールに苦笑いし、ラリサはマルーシャをうながした。