かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしたらカタブツ学者さまに愛されました~
その後、マルーシャの家へ向かいながらあらためて名乗ってくれた二人は、イグナート・クレヴァ三十二歳と妻のラリサ二十九歳。
ダニールと違って気安い話し方がマルーシャにはありがたかった。年齢は十いくつも下なのだし、マルーシャは普通の町娘なのだから。
クレヴァ夫妻はダニールたちと正午に市場のある広場で待ち合わせしていたのだとか。それから時計工房を訪ねるつもりだったらしい。
「ベルドニッツといったら広場の仕掛け時計だもんな、見ておこうと思って。ダニール来ないから俺とラリサだけで見物してきた」
「え、お父さんの時計を?」
広場の時計塔にはクリフトが作った時計が設置されていた。昼の十二時にだけオルゴールが鳴り、人形が出てきてクルクルと踊るものだ。
「あれクリフト・アヴェリン氏の作品?」
「父のですけど……やだ、何か有名なんですか?」
「ベルドニッツの名所ってことになってるよ」
「うそ……」
マルーシャはぼうぜんとした。父の趣味を詰め込んで製作したあの時計が他所で知られているなんて。どうりで遠くの町から客の指名が入るわけだ。
「なのになんでウチ、貧乏なの……?」
つい心の声がもれてしまったらラリサが笑い出した。
「そんなに? 苦労してるのねえ」
「あはは、まあなんとか暮らしてます」
「……でも、不幸せではなさそう。閣下に悪い報告はしないですむんじゃないの、ダニール?」
「そうだな……そうですね」
ラリサに返答するべきか、マルーシャに言葉をかけるべきか、迷ったダニールの話し方がおかしくなる。あきれたイグナートが隣から裏拳でツッコミを入れると、ボフン、と白く粉が舞った。