かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしたらカタブツ学者さまに愛されました~
マルーシャの旅立ち
「おっと。本当に来たのかあ」
呼ばれたクリフトはひょいと立ち上がった。むしろ嫌な話から逃げられてホッとしたように見える。
「悪いね、ちょっと出てくる」
「お父さん、クジモさんはお金を受け取りに来たのよ? 渡せないのにどうするの!」
マルーシャの声に不安がにじんだ。
今日納品だと伝えた時、クジモはとても喜んでくれたのだ。裏切ったらとても怒るだろう。
「まあまあ、事情を話せばわかってくれるさ」
クリフトは笑って行ってしまった。あれは反省していないと思う。
「……失礼だけど、大丈夫かい?」
見送ってイグナートが眉をひそめた。
「お金って言ったね? どんな相手でも、金が挟まるとガラリと変わることがあるから」
「ご近所の友人なんですけど……生活費を借りていて」
「うわ、本当に苦労人だなあ」
借金の理由は生活費。さすがに恥ずかしくてマルーシャも小声だった。
「お母さまも、がんばりやさんなのね。いいこいいこ」
「うう、ミュシカありがと」
マルーシャが返す笑顔はやわらかく、ダニールは目を細める。
この人が話すと空気が春めく気がした。やはり〈春告げの姫〉なのかもしれない。ぜひファロニアへ連れて行きたいと決意した。
「あの……クリフト氏も同行するのは歓迎します。それでいかがでしょうか」
「うわ、ありがとうございます。我がまま言ってすみません」
「いえ。そもそも突然お招きするのがこちらの我がままですから」
「あーらら閣下が我がままだって言っちまったよ、こいつ」
「っ! そういう意味じゃ」
混ぜっ返されてダニールがムッとする。だがミュシカもラリサもニコニコ見守っていて、口喧嘩が許される間柄なのがわかった。この人たちとの旅ならば、きっと楽しいだろう。クリフトも同意してくれればいいのだが。
するとそのクリフトの大声が台所まで響いた。
「だめだよ、そんなの!」