かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしたらカタブツ学者さまに愛されました~
ミュシカの登場は実のところラリサの策略だった。嫁取り話を邪魔しても、マルーシャとその息子が恋仲ではないなら問題あるまい。
だがその意図はたぶんダニールに通じていない。台所に隠れつつ、イグナートとラリサは事態の成り行きを見守り念を送った――ダニール、余計なことは言うな。
「金銭的な問題があったのは聞きました。しかし今マルーシャさんの身柄を引き留められると困るんです。金額にもよりますが、それは僕が立て替えることも可能ですので、お引き取り願えませんか」
静かにダニールが告げる。その内容は事務的なのだが、態度の鷹揚さにクジモは丸め込まれた。いい家の男と結婚話が決まっているのを壊したら、それこそ慰謝料を要求されかねない。
「――わかった。立て替えると言ったのは忘れんでくれ。こっちも往生しているんだ」
「承ります。後ほどクリフトさんにお渡ししますので」
硬い表情できびすを返すクジモに、クリフトは声をかけた。
「クジモ! 悪かったよ。これからはおまえに頼らないでちゃんとするから。頑張るからさ」
「うるせえ。謝るならマルーシャに謝れ、このアホウが」
振り返ったクジモはひどい渋面だ。
「いつの間にそんな旦那と娘が? とんでもない恥かかせやがって……」
言い捨てて、クジモは戸の音も荒く出ていった。
「だん、な……?」
ここに至ってダニールはようやくクジモの誤解に気づいた。赤くなり、次に青くなる。自分はうっかり閣下の孫娘の夫づらをしてしまったのか。
マルーシャもほとんど思考停止状態だ。いきなりの結婚話にも驚いたが、本人が意思表示をする間もなく秒で破談になるってどういうこと? その様子に慌てたダニールが口ごもる。
「あ、あの、マルーシャさん……申し訳な」
「――ダニールくぅん!」
微妙な空気を破ってクリフトが駆けよった。ダニールの手を取りぶんぶん振り回す。