かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしたらカタブツ学者さまに愛されました~
「――しょうがないなあ。行っておいでマルーシャ」
「なあに。お父さんも一緒でしょ」
「僕はいい」
クリフトは優しい笑い方をした。娘が小さかった頃、遊んでやる妻をながめていた時と同じまなざしだ。
「僕はまだ……アレーシャのいないファロニアを見たくないからね」
思い出の中のファロニアは、いつもアレーシャの声と笑顔に彩られている。今あそこを訪れたら、鮮やかだった妖精の国が空っぽに思えてしまいそうで怖かった。
「お父さん……」
「僕は留守番だ。なに、仕事が舞い込むかもしれないし、マルーシャがいなくてもちゃんと暮らすさ。本当におまえが嫁に行けば一人暮らしになるんだしな。予行演習だよ」
記憶の中の人はずっと年をとらない。その母を置き去りにして大人になっていく娘マルーシャは、いずれアレーシャの年齢を越えるのだろう。
それもまた、とてつもなく幸せなことだとクリフトは思った。
いつ出発するか相談しておいてくれよ、と言い置いてクリフトは二階に引っ込んでしまった。なんだかガタゴトと音がしているので悲しみに沈んでいるわけでもなさそうだが、マルーシャはオロオロする。
「……クリフトさん、とてもアレーシャさんのこと愛してるのね」
現在進行形でラリサが言ってくれて、マルーシャはうなずいた。
「それもちゃんと報告だな、ダニール。侯爵閣下も安心する」
「そうしよう。ええと、では同行するのはマルーシャさんだけ、ということで。出立のための打ち合わせをさせて下さい」
ダニールに切り出されて話し始めたのだが――マルーシャはすぐに頭を抱えた。旅に必要な物を何ひとつ持っていないのだった。ラリサが指折り数える。
「持ち歩ける洗面道具、服関係が上から下まで。そして何より旅行鞄がないってことね。大丈夫よ、ベルドニッツで買い物ができるなんて私は嬉しいわ」
「ラリサずるい! わたしもいく!」
「まあミュシカったら。女の子ねえ」
「んじゃ買い物は女手に任せようぜ。足りなくても途中の町があるし、さっくりで」
「そうね適当に切り上げる」
クレヴァ夫妻がテキパキと話を進める。でもマルーシャは、自分のことよりも独りになるクリフトの暮らしが不安だった。
「なあに。お父さんも一緒でしょ」
「僕はいい」
クリフトは優しい笑い方をした。娘が小さかった頃、遊んでやる妻をながめていた時と同じまなざしだ。
「僕はまだ……アレーシャのいないファロニアを見たくないからね」
思い出の中のファロニアは、いつもアレーシャの声と笑顔に彩られている。今あそこを訪れたら、鮮やかだった妖精の国が空っぽに思えてしまいそうで怖かった。
「お父さん……」
「僕は留守番だ。なに、仕事が舞い込むかもしれないし、マルーシャがいなくてもちゃんと暮らすさ。本当におまえが嫁に行けば一人暮らしになるんだしな。予行演習だよ」
記憶の中の人はずっと年をとらない。その母を置き去りにして大人になっていく娘マルーシャは、いずれアレーシャの年齢を越えるのだろう。
それもまた、とてつもなく幸せなことだとクリフトは思った。
いつ出発するか相談しておいてくれよ、と言い置いてクリフトは二階に引っ込んでしまった。なんだかガタゴトと音がしているので悲しみに沈んでいるわけでもなさそうだが、マルーシャはオロオロする。
「……クリフトさん、とてもアレーシャさんのこと愛してるのね」
現在進行形でラリサが言ってくれて、マルーシャはうなずいた。
「それもちゃんと報告だな、ダニール。侯爵閣下も安心する」
「そうしよう。ええと、では同行するのはマルーシャさんだけ、ということで。出立のための打ち合わせをさせて下さい」
ダニールに切り出されて話し始めたのだが――マルーシャはすぐに頭を抱えた。旅に必要な物を何ひとつ持っていないのだった。ラリサが指折り数える。
「持ち歩ける洗面道具、服関係が上から下まで。そして何より旅行鞄がないってことね。大丈夫よ、ベルドニッツで買い物ができるなんて私は嬉しいわ」
「ラリサずるい! わたしもいく!」
「まあミュシカったら。女の子ねえ」
「んじゃ買い物は女手に任せようぜ。足りなくても途中の町があるし、さっくりで」
「そうね適当に切り上げる」
クレヴァ夫妻がテキパキと話を進める。でもマルーシャは、自分のことよりも独りになるクリフトの暮らしが不安だった。