かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしたらカタブツ学者さまに愛されました~
「お父さん、平気かなあ……」
「ご近所の方々へお願いすることはできますか?」
「もちろん様子を見てもらいます。でなきゃ私が帰るまでに死んじゃいそう」

 クリフトは娘からまったく信用されていないらしい。さすがにダニールも微笑んでしまい、その笑顔にマルーシャは顔を赤らめた。
 娘として生意気な態度だったろうか。ダニールから見れば年端もいかない娘が突っ張っているように思えるかも。

「――おーい、あったあった! アレーシャの鞄だよ!」

 そこにドタドタと入ってきたのはクリフトだ。埃まみれで腕に抱いているのは、四角い革の旅行鞄。

「お母さんの、鞄?」
「ファロニアを出た時に持ってきたやつだ。だから質はいいはずだぞ、あいついちおう姫君だったからね」

 嬉しげに細める目は、たぶんアレーシャとの思い出を見ている。そんな物を使ってもいいのだろうか。

「……きれいに取ってあるのね」
「そりゃあな」

 開けてみても内貼りの布まで鮮やかさを保っていた。そこに描かれる(ワシ)の意匠は侯爵家の紋だそうだ。

「私にはこんな立派なのじゃなくていい。お父さんのだってあるんじゃない?」
「僕の鞄はボロボロだし、中でネジとかバネが錆びついてたな」
「なんで!?」

 出し忘れてただけさ、とクリフトは悪びれなかった。そして娘に笑顔を向ける。

「せっかくだ、この鞄ぐらい里帰りさせてやってくれ」

 そう言われては、マルーシャもうなずくしかなかった。

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