かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしたらカタブツ学者さまに愛されました~
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ぐにぃぃ――。
珍妙な音が時計工房に響き渡り、ミュシカが笑い転げた。
「ねこちゃん、かわいい!」
「そうか、ミュシカは気に入ったか!」
きちんと巻いて動かしてみた柱時計は、先日依頼主に引き取り拒否されたもの。その腹部分からビヨーンと猫があらわれ、そして引っ込んだ。
クリフトが職人としての自分の腕前をミュシカ相手に披露しているのだった。伯父さまとして見栄を張りたいらしい。
あきれ顔のマルーシャ。
困った笑顔のイグナート、そしてラリサ。
ダニールが無表情なのは反応に迷っているからではないかとマルーシャは推測した。旅立ちの支度で数日間こまごまと行動を共にした感想だ。学問以外はいろいろと不器用な人なのだと思った。
旅行鞄こそ母アレーシャのものを譲り受けたが、旅に出るなら買い物は必要だ。
なので町にラリサと出かけようとすると、ミュシカがついて来る。すると保護者としての責任を感じるのかダニールも同道するし、一人だけ残っていてもつまらないのでイグナートも出てきて、結局ぞろぞろ歩くことになるのだった。
というか、買い出し兼ベルドニッツ観光だったかもしれない。広場の時計塔もあらためて見物したし、一番人気のワッフル屋にも立ち寄った。住民のマルーシャよりラリサとイグナートが有名店に詳しいのには笑うしかない。
そして幼いミュシカの奔放さにオタオタするダニールにも笑いをかみ殺した。やはりそういう人なのか。でも子どもにも真面目に向き合う人だとわかって好印象ではある。
みんなで仲良く歩いていると、町の人からますますダニールがマルーシャの夫として誤解されていった。ミュシカが「お父さま、お母さま」と手をつなぎたがるからだ。
クジモとの一件もジワジワと噂になっていて、マルーシャはもうベルドニッツで結婚相手など見つからないんじゃないかと心配になってきた。
ご近所さんの生あたたかい視線は、マルーシャとダニールの未来を見すえている。本人たちは事務的な関係だと考えているのに、外堀はがっつり埋まってしまった。
もう明日には出発する予定なのだが、そうなると嫁に行ったと噂になるのではないか。マルーシャはひそかに戦々恐々としていた。