かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしたらカタブツ学者さまに愛されました~
「じゃあ行くね」
「おう、気をつけて」
「お父さんこそ、ちゃんと生き延びてよ」
軽口を応酬しながらマルーシャは育った家の戸口に立った。初めての、旅立ちだ。
クリフトはさすがに寂しそうに肩を落とし、ダニールに小さく笑った。
「閣下によろしく伝えておくれ。アレーシャはたぶん幸せだった、て」
「それはもちろんです」
「あと――」
クリフトはマルーシャのことをチラリと見た。最近は叱られてばかりの、しっかり者に育った娘。
「マルーシャに、妖精のなんたるかを仕込んでやってくれ。僕にはわからんし、アレーシャには教える時間がなかった。きみは専門家だからな」
「――承りました」
ダニールの返事にクリフトは莞爾として笑った。肩の荷がおりたように感じた。
妻アレーシャは最期まで娘を案じていた。妖精の血を明らかに継いでいると思うのに、自分は娘にその生き方を伝えられないから。
「ファロニアから接触があって、実はホッとしたのさ。妖精の世界は僕にはわからないことが多すぎる。頼むよ」
いつもは何かと逃げたがるクリフトから真っ直ぐに言われ、ダニールはうなずいた。妖精の先輩としてミュシカも張り切る。
「お母さま、ようせいのおまじないやってみようね!」
「ふふ、ミュシカに教えてもらおうかな?」
旅路のうちに、マルーシャはきっと未知の自分に出会うだろう。
だってこれは妖精の国へ、見知らぬ世界への道行きだった。何があるかはわからない。
「――行ってきます!」
マルーシャは家から足を踏み出した。
この旅は、きっと楽しい。
ダニールとミュシカと、イグナートにラリサ。みんなが一緒だから大丈夫。
そして――母アレーシャが愛した国と祖父が、道の先に待っているのだ。