かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしたらカタブツ学者さまに愛されました~
内堀までも埋まってく
妖精としての第一歩
ファロニア侯国。
それは、マルーシャの母の国。祖父であるファロン侯爵が治める国。
ベルドニッツからは途中バルテリス王国を経て馬車で六日ほどだ。
国と同じ名のファロニアが唯一の大きな街だそうだ。他は村ばかりの小さな、だが美しい土地。
山脈を背にして水は豊か。丘と山地に囲まれているおかげで他の国々とは一線を置き、森と湖の息吹に包まれて妖精族の安住の地となっていた。
妖精族が国民の多数をしめるが、それは対外的には秘密だった。国内に暮らす人族でも妖精族との婚姻を結んだ者以外はその事を知らないのだとか。
マルーシャの人生で初めての旅は、その妖精の故地を訪ねるものになる。
それは母の足跡をたどり、春から受け取った祝福を確かめるための旅だった。
「お母さま、ばしゃもはじめて?」
「そうよ」
ミュシカは新しい「お母さま」にべったりだ。でもマルーシャのほうも、仮の娘の頬をなでたり、むにむにしたり、さわり放題にしていた。小さい子ってなごむ。
「ミュシカ……」
「なあに、お父さま」
「……いや、なんでもない」
じゃれ合う二人の向かいに座るダニールの心には、何を見せられているのかという疑問が湧き上がった。ミュシカが甘えん坊なのはわかるが、マルーシャも楽しそうなのが解せない。
基本的に学問や研究しかしてこなかったダニールの人生。馬車に揺られるこんな時間も有効に使いたくてウズウズした。
「――」
だがまずは、マルーシャに妖精として自然とつながってもらってからか。
思い直し、ダニールは窓の外に目をやった。ベルドニッツを出てそんなに経ってはいないが、町近郊の畑や農家もなくなってきた。野原が広がり、森も近づく。
そろそろかな、と思った。
折よく馬が歩調をゆるめる。静かに停まった馬車の馭者台から、イグナートが声をかけてきた。
「この辺でどうだ」
「ああ、ちょうどいい」
いい所があったら停めてくれと頼んでおいたのだ。ダニールは頭を低くしながら立ち上がり、扉を開ける。
「降りて下さい」
「もう休憩ですか?」
マルーシャが外を見ると、そこは風が吹く草原だった。