かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしたらカタブツ学者さまに愛されました~
「わ……!」

 馭者台にいたラリサが降りてきて、マルーシャに手を差し出してくれた。そっと支えてもらい馬車から出たマルーシャは息をのむ。知らない景色だ。

 広がる野原。揺れる草の実。
 向こうの森の木々は、黄金色とまではいかないが秋の気配。
 そして空が広い。

「――きれい」
「ふふ、マルーシャは町っ子だものね」

 脇のラリサが微笑んだ。旅支度をするうちにすっかり仲良くなって互いに「ラリサ」「マルーシャ」と呼び合っている。頼れる姉ができたようで、ひとりっ子のマルーシャはこっそり喜んでいた。イグナートなどグッと距離を詰め「マルーシャちゃん」と呼び、ダニールに微妙な顔をされている。
 ダニールの方は変わらずに丁重だが、マルーシャにとても期待しているのは態度の端々で見て取れた。馬車を背にして野原や森を手で示す。

「ここで、マルーシャさんにおまじないをしてもらいたいのです」
「私が、おまじないですか」
「はい。自然を強く感じられるようになるためのものです。それが妖精としての第一歩なので。町でやるよりも成功すると思います」
「はあ……」
「子どもの頃に誰もが唱える、初歩ですから」
「……わかりました。教えて下さい」

 マルーシャが腹をくくると、ダニールは嬉しげな顔をした。本当に研究が好きなのだなとあきれてしまう。

 シェイディ。コン。ケルブ。
 ダニールは一語ずつ発音した。おまじないがうっかり妙な働きをしないように、だそう。
 その意味するところは「我とつながれ」。

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