かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしたらカタブツ学者さまに愛されました~
「ここにある土や草や風なんかに、そのおまじないを伝えてみて下さい」
「……やってみます」

 伝えろ、とは簡単に言ってくれる。
 でもすでにマルーシャは、草原の息吹に包まれる心地よさに身をゆだねていた。そしてつぶやく。

シェイディ コン ケルブ(我とつながれ)

 ざん――――。

 風が身の内を吹き抜ける感覚につらぬかれ、胸がざわめいた。

 大地。風。水。光。なにもかも。

 自らをとりまくすべてが、くっきりと押しよせる。そしてマルーシャは知覚した。
 ――これが、世界。

 自然とつながる。それが妖精族の力だと言われた、そのわけがわかる。今まさにマルーシャはつながったのだった。

「――お母さま、できた!」

 ミュシカが喜びの声をあげる。後ろで見ていただけなのに何を感じたのか、マルーシャに駆け寄ってきた。

「できた……のかな」
「うん、ぜったいできた! ね、お父さま?」
「あ、ああ――」

 何故か感極まったように言葉を詰まらせるダニールにマルーシャは不安になった。

「……私、変なことしましたか?」
「いや……すごいな、と。あなたから花の息吹を感じて」
「はい?」
「確信しました、あなたは春の祝福を受けている。マルーシャさんは春の愛し子、次代の〈春告げの姫〉ですよ。本当に安心しました侯爵閣下も喜ばれるでしょう道中では是非おまじないに関しても手ほどきをさせて下さい春を言祝ぐ歌についても正しく伝わっているのかどうか確かめないと」
研究者(オタク)の早口やめろ!」

 次第に熱を帯びるダニールの言葉をイグナートがさえぎった。
 ギリギリ聞き取れなくて気おされたマルーシャは、ポカンと口を開けて立ち尽くしている。その表情に気づいて、ダニールは青ざめた。

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