かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしたらカタブツ学者さまに愛されました~
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 この家に応接間なんてものはない。なので仕方なく、台所に招いてお茶を出すことにした。クリフトが食事していた食器をマルーシャはあわてて片づける。
 椅子を勧められたダニールは、ミュシカをぎこちなく膝に座らせた。その謹厳実直な雰囲気とニコニコ愛らしい幼女が絶妙に似合わない。苦笑いをこらえていたら、自己紹介された。

 ダニール・ジートキフ、三十歳。
 妖精族の歴史や習俗、能力について研究する、ファロン侯爵のお抱え学者だそうだ。

 妖精学――いや、まずその「妖精族」という存在そのものにマルーシャは頭を抱える。
 だがクリフトは、五歳のミュシカとダニールの関係の方が気になったようだ。

「え、伯父さんなのかい?」
「僕は独り身でして……ミュシカは弟の娘なんですが、一時的に預かっています」
「いや、いやなの! お父さまでいてよう」
「ああ大丈夫、わかってるよミュシカ」

 ダニールは膝に抱いたミュシカを不器用な手つきでなだめる。

「弟夫婦は今、行方不明なんです。それでこの子は少し不安定で……僕が父親がわりというか」
「おや。穏やかじゃないねえ」
「そうですね、手は尽くしていますが。その弟の妻というのがアレーシャさんの妹のリージヤです」

 アレーシャ。それはクリフトの死んだ妻の名。マルーシャが九歳の頃に亡くなった母のことだ。ということは。

「リージヤ叔母さんの娘が、ミュシカ……なら私たち、いとこなの?」
「お母さま、いとこ?」

 ミュシカはがんとしてマルーシャを「お母さま」呼びする。ダニールの膝から飛び降りて、今度はマルーシャによじ登ろうとした。ダニールは困り顔でつかまえようとする。

「ミュシカやめなさい」
「あら、いいんです。おいでミュシカ」

 マルーシャは子どもが好きだ。町のちびっこたちともいつも仲良し。
 ミュシカをひょいと膝に座らせてやると、甘えて見上げるミュシカと笑い合う。それをクリフトとダニールはしみじみ見つめた。

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