かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしたらカタブツ学者さまに愛されました~
「では、野原ならではのものを」

 おもむろに一歩前に出たダニールは、地面に手をかざし唱えた。

ツェラム ジニ ツェトゥ ラスタ(命よ進め 花開け)

 マルーシャはふわりと強い力を感じた。
 土の中に熱が生まれる。それがなんなのかわからないままに見つめた。
 ダニールはその熱の上にそっと手を添え、待つ。
 ぽこん。しゅる。
 土がふくらみ、草の芽が吹いた。

「――!」

 目を丸くするマルーシャの前で、見る間に茎が伸び、いくつもつぼみができ、ほころんでいく。
 そこに咲いたのは、うつむき気味な青紫のオダマキ(アクイレギア)の花。(がく)がシュルと長く美しい。

「どうでしょう。草花の種に働きかけ、芽吹きを進めるおまじないです」
「種……進める?」

 ダニールはやや得意げだ。マルーシャはぽかんとして花の前にしゃがみ、しげしげとながめた。

「きれい。これを、おまじないで咲かせたんですか?」
「はい。地中の種から育てたんですよ」

 そこに寄ってきたイグナートとラリサは、ほとんどひきつり笑いだった。

「相変わらず、とんでもないな」
「ほんと。マルーシャ、これが妖精族の普通だと思っちゃだめよ。ダニールはおかしいの」
「え?」

 マルーシャは首をかしげた。おかしい、と評されたダニールは不満そうだ。

「研究していたらできるようになっただけだ。習熟の問題だと思うよ」
「んなわけあるかーい。おまえのはもうおまじない(・・・・・)じゃなくて()の領域だろが」
「いやだって、僕はおまじないの専門家なんだから」

 イグナートに言いきられダニールは渋い顔だ。でもラリサが言うには、普通の妖精族は種からあっという間に花を咲かせるようなことはできないらしい。ダニールのおまじないは超強力なのだった。

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