かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしたらカタブツ学者さまに愛されました~
 実のところダニールの研究に参加できる人材というのはあまりいないのだった。細分化し専門化した難しいおまじないは、確かに()と呼ぶにふさわしい。妖精族といえどもそのレベルで力を操る者は少なかった。
 マルーシャが強い力を持つのなら、共に学問ができるかもしれない。そういう期待がダニールの胸に生まれる。

ツェラム ジニ ツェトゥ ラスタ(命よ進め 花開け)

 まずはおまじないの言葉と意味を教わって、マルーシャは口の中で繰り返しつぶやいた。不思議な響きだ。

「じゃあさっきの花の近くでやりましょう。同じように種がこぼれているはずだから感じてみて下さい」

 なんでもなさそうに言われてマルーシャは振り向いた。地中の種を感じる?

「ダニールさん……感じてって、そんな」
「え?」

 ダニールは当然の顔だが、いきなりその要求は無邪気にすぎる。これだから誰もこいつの研究についていけないんだよな、とイグナートはため息をついた。
 すると困惑するマルーシャの横にミュシカが寄ってきた。

「おめめとじて、じめんのなかをみるの」
「ミュシカも教えてくれるの? ありがとう」

 隣でミュシカがするのを真似る。これなら遊びのようなものだからマルーシャも気が楽だ。目をつむり意識を地中に向ける。
 マルーシャは――何か小さな光をとらえた気がした。

「キラキラいのちがいたらね、いいこいいこ、するのよ」

 楽しげなミュシカの言葉にみちびかれる。
 見つけた何かに心で手を差し伸べた。

「それで、いうの。ツェラム ジニ ツェトゥ ラスタ!」
ツェラム ジニ ツェトゥ ラスタ(命よ進め 花開け)

 ミュシカの声と同調し、ほとんど無意識につぶやいた。
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