かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしたらカタブツ学者さまに愛されました~
 町で一番にぎやかな通りをミュシカは行く。ふくふくとした小さな手を握り、マルーシャは初めてのよその町をキョロキョロしていた。
 一見すると女三人連れのマルーシャたちだが、少し後ろからダニールとイグナートがついてきている。〈春〉候補と〈冬〉がいるのだから当然の護衛だった。

「お母さま、たのしみね!」

 流行りの甘味に胸をときめかせるミュシカは、どう考えてもマルーシャより女子力が高い。五歳児に負けてマルーシャは少し反省した。
 店には女性たちが大勢いて、護衛役二人が同行しない理由がよくわかった。マルーシャは気圧されているのにミュシカはお目当ての菓子を見つけてご満悦。
 求めた品はバターの香り高い、ケーキともクッキーともつかない生地だ。そこにキャラメルとアーモンドがふんだんにトッピングされている。ラリサが残念そうにつぶやいた。

「家にも買っていってあげたいけど。日持ちしないわよねえ」
「子どもが三人なんだっけ。お留守番はどうしてるの?」
「イグナートの両親がみてくれてる。学校もあるし、連れて来るわけにいかないでしょ」

 それにもしかしたらミュシカが狙われたりするかもしれないのだ。子連れでは護衛も何もできない。するとミュシカが心配そうにした。

「ラリサいなくて、みんなさびしい?」
「だいじょうぶよ、うちの子たちは一人じゃないから。ミュシカを寂しくさせてたら、あの子たちに怒られちゃう」

 抱きしめてもらい、ミュシカはエヘヘと笑った。
 ちょっとしたことに敏感に反応し不安がるのは事情を知ってみれば当たり前だと思う。リージヤの元に帰せるまで、マルーシャは「お母さま」として頑張るつもりだ。

 そろそろ日が傾く町並みはまだにぎやかだった。
 歩きはじめた大通りの横道から市場が見える。華やかな店よりもそっちの方がマルーシャのなじんだ場所。父はちゃんとご飯を用意できているだろうか。
 そんなことを考えていると、子どもたちが走り出てきた。家まで競争している兄弟だろう。大通りを横切っていく男の子二人と、少し遅れて女の子――するとその妹がベチンと転んだ。ミュシカよりも幼い子だ。膝と手を少しすりむいていて泣き出す。マルーシャは隣にしゃがんで声をかけた。

「だいじょうぶ? 痛かったわね」
「あーあ、もう」
「おまえすぐ泣くし」

 泣き声で戻ってきた兄たちがブツブツ言って、女の子はさらに泣いてしまった。するとずい、と前に出たミュシカが言い合いをはじめる。

「ひどいんだ。そんなこというから、ないちゃうのよ!」
「なんだよ、おまえ!」

 にらみつけられて、マルーシャはミュシカを後ろにかばった。けんか腰でかかっても仕方ないので男の子たちに笑顔で注意する。

「あなたたち、小さい子の面倒もみられないなんてカッコ悪いわよ」
「えー……」

 ふくれっ面になる男の子たちはおいておき、マルーシャは泣きじゃくる女の子に手を出した。

「ほら、おうちに帰ろうね。痛くなくなるおまじないしてあげる」

 そしてマルーシャは唱えた。

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